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妖怪小話・漆拾肆 夜道怪
「やあやあ、君は、幸せかい?」
夜道怪は、こっそりと家に侵入し、 放置子へと問いかける。
放置子は、生気のない目で夜道怪を見つめ、力なく首を左右に振る。
夜道怪は、にっこり笑う。
「そうかいそうかい、幸せじゃないかい。なら、こっちへおいで」
夜道怪は、手を差しだす。
放置子は、その手を見る。
夜道怪を見る。
部屋を見る。
放置子は、夜道怪の手を取った。
放置子は、考えた。
今から連れていかれるのは、天国かもしれない。
地獄かもしれない。
だがしかし、今この場よりはましだろうと。
誰もいない空っぽの部屋。
誰も自分を見てくれない場所。
それよりは、今、自分を見てくれている夜道怪の方が幸せだろうと手を取った。
夜道怪と放置子は、そのまま夜の闇に消えていった。
放置子が、どこへ行ったかはわからない。
放置子が、幸せになれたのかはわからない。
世間に分かるのは、放置子の親が死亡、あるいは逮捕された後、戸籍上存在するはずの放置子がどこにもいないと気づいた警察によって公開された、放置子の顔くらいである。
今日も、どこかで放置子が行方不明になっている。
が、その事実を世間が理解するのは、数年後か、数十年後か、あるいは。
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