妖怪小話・漆拾捌 鮭の大助

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妖怪小話・漆拾捌 鮭の大助

 その河原は、絶好のバーベキュースポットとして有名だった。    そう、だった、    有名ゆえに、多くの客が押し寄せた。  多くの客が押し寄せれば、マナーのない客も紛れ込む。    河原にゴミが散らかった。  河の中にゴミが積もった。  昼夜を問わずに人と車の音が暴れ回った。    結果、近隣住民からの苦情という形で、バーベキューでの使用が禁止された。        が、マナーのない客には関係ない。  使用禁止となった河原には、常識という概念が脳からすっぽり抜け落ちた人々だけが残った。    景観がいいのに人が少ない穴場スポットとして、河原は有名になり続けた。    より、河原にゴミが散らかった。  より、河の中にゴミが積もった。  より、昼夜を問わずに人と車の音が暴れ回った。    客と、警察と、近隣住民の追いかけっこが続いていた。    今日もまた、使用禁止の看板を蹴倒して、マナーの悪い人々が、河原でバーベキューを楽しむ。   「うぇーい!」   「うぇーい!」    心地よい風の音。  風が運ぶ肉の香り。  食欲を誘う肉が焼ける音。    人々の興奮は最高潮。    だから、河を泳ぐそれに気づけなかった。    鮭の大助は、河からぴょんと飛び跳ねて、コンロを囲む十数人の人々を丸飲みにした。    そして、河原をピチピチ跳ねて、河へと戻り、下流へ下流へと泳いでいった。    今日も河原は、ゴミ一つない綺麗な状態が保たれている。
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