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妖怪小話・捌拾弐 宇婆
国土交通省の公開した資料によると、日本の人口は昭和三十年から平成二十二年までの五十五年間で、約四割増加している。
平成に入り、少子高齢化が叫ばれつつも、産まれる子供と長生きする高齢者によって緩やかに増加を続けていた。
が、その裏で、離島の人口は約六割が減少をしている。
雄大な自然に美味しい食事。
そんな住みよい自然環境というメリットも、医療機関が不足し、交通機関の数が少なく、就職の選択肢が少ないという数多のデメリットの前には、意味をなさなかった。
人々は、より豊かな、否、テレビによって理解した現代の最低限度の生活を求めて、故郷である島を離れていった。
一人。
また一人。
島から人間が消えていく。
かつて人間が暮らしていた島は、いつしか観光用の島、あるいは無人島へと姿を変えていった。
十年が経ち、二十年が経ち、世代交代が進んでいく。
いつしか、その島を故郷と呼ぶ人間はいなくなり、荒れ果て、国によって立ち入りが禁止される。
離島は、資料に名前が残るだけの、誰の記憶にもない何かへと変わってしまった。
都会に住む人々は、そんな資料を見ながら、離島の活性化に頭をひねる。
机に座って。
だから、人々は気づいていない。
「おお、ここはいい場所だ」
離島に集まる妖怪たちの存在に。
とある離島では、宇婆と水蝹が仲良く住んでいる。
人間がおらず、人間が近寄らない離島は、妖怪たちにとって格好のオアシスとなっている。
人間に知られてはまずいことも、ここでならばやり放題。
人間がその事実に気づくまで、後――。
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