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エマは口を挟まずじっと聞いてくれる。
「というわけで、この森にはもうエルフは私一人だし、他のエルフの行方も検討もつかないってわけ。そもそも私はこの森以外の場所を知らないしね」
話し終えた私の言葉に、エマは身体を小刻みに震えさせ始めた。
文字通り死にそうな思いをしながら辿り着いた望みが、潰えたのがよほど悲しかったのだろうか。
エマは眼鏡を上げて目を拭うと、私の両手を強く握りしめてきた。
視線を始めに握られた両手、そして顔を上げエマの目へと向ける。
今にも泣き出しそうな顔だ。
口元はわなわなと震えている。
手を握られた理由は分からないけれど、やはり悲しいようだ。
そんなことを考えていると、突如目の前が真っ暗になった。
エマが私を力いっぱい抱きしめたのだ。
初めて感じた他人の体温、柔らかさ。
エマの身体の震えは消えていた。
「ルシアさん!! 偉いです! 凄いです!! どんな言葉を使ってもなんの慰めにもならないと思いますが、あなたは無価値なんかじゃないですから! いっぱい、いっぱい価値がありますから!!」
「エマ……?」
「私はルシアさんのこと少ししか知らないですけど、私の中では命の恩人です!! 人を助けられるような人に、価値がないわけないんです!」
無価値じゃない。
私には価値がある。
会ったばかりの、名前しか知らない女性。
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