第3話【茶色い塊】

5/6
前へ
/16ページ
次へ
 私が生きた千年の中のほんのひと時を過ごしただけの女性。  そんなエマは私が欲しかった、欲しくて堪らなかった言葉を、言ってくれた。  エマから感じる温かさとは別に、私の身体の中にも温もりを感じた。 「そうだ! 私いいもの持ってるんです。悲しい時にはこれに限ります。美味しいものを食べれば、悲しい気持ちなんかすぐに吹っ飛んじゃうんですから! 一緒に食べましょう!」  エマはそう言いながら私から離れ、腰に付けた鞄の中から、小さな包みを取り出した。  さっきの言葉からすると食べ物らしい。 「はい! ちょうど半分こしました。こっちはルシアさんの分です」 「ありがとう……」  エマから手渡されたものは、四角い形をした茶色い塊だった。  どんな味がするのか全く想像できず戸惑っていると、エマが笑顔で私を見つめているのが目に入る。  それでも口にできずにいると、エマは何か気付いたような素振りを見せ、おもむろに右手に持った自分の塊を口にした。  何回か咀嚼(そしゃく)を繰り返した後、にんまりと顔を崩す。 「毒は入っていませんよ。安心してください。騙されたと思って食べてみてください。凄く美味しいんですから!」 「う、うん……」  目をつぶったまま塊にかぶりつく。  カリッと軽い音を立て、塊が舌の上に触れた瞬間。 「わっ⁉︎ なにこれ! 甘くて……すっごく美味しい‼︎」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加