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「永劫とも言える人生において戯れに、それぞれ子をなしてみたものの。まさかこんな出来損ないが私の元に生まれるとは思ってもみなかった。我が人生において、唯一の汚点とも言えよう」
「心中お察しします。最愛の伴侶ルビス様がお亡くなりになり、なぜこの様な無能が世に生まれてきたのか。この時ばかりは森神様のご神意を測りかねました」
「まぁ、過ぎたことだ。それに、代わりと言ってはなんだが、お前の息子の魔力は素晴らしい。間違いなく私の次の族長はお前の息子になるだろう」
「もったいなきお言葉。それでは、これ以上長居も必要ないとあれば。さっそく移動を」
サイラスの言葉でメルフィムは新天地への移動を始める合図を村中に送った。
村のエルフたちは、誰一人私に気をかけることなく、慌ただしく村から出ていく。
私はまるで置物かのようにそれを静かに眺めていた。
いや、私は置物などといった洒落たものですらないのだろう。
村のみんなが去った後、何気なくそれぞれの家々を巡ってみたが、備え付けの動かせない物以外はほとんど何も無くなっていた。
つまり、私はこの村にあった何よりも無価値な存在だったということなのだろう。
族長の娘ということで、今までは直接何か言われたことはこれまでなかったが、先ほどのサイラスの言葉が全てを物語っていた。
私のこの村にあった唯一の価値は、最大の魔力を持つ族長の所有物であったこと。
父親メルフィムが私を手放したことにより、その価値すら無くなったというわけだ。
あまりの事実に打ちのめされ、私は何もする気力もなくなり、床の上に無造作に身体を投げ捨て、ただただ時間が過ぎていくのを待った。
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