第1話【無価値の無駄な荷物はここに置いていく】

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第1話【無価値の無駄な荷物はここに置いていく】

「……ということだ。ルシア。我々はこの森を去り、安全な地へと移らねばならない。ただし、お前は連れていかない。訳は言わなくても分かるな?」  長髪の銀髪、整った色白で細面の顔、尖った長耳。  よく見知ったはずのその顔は、何故か全く知らない別人のように見えた。  目だ。灰色のその瞳が向ける視線が、あまりにも冷たく、空虚に感じたから。  族長であり、実の父親でもあるメルフィムの言葉に、その視線に、私は心底驚いた顔をしていたに違いない。  それほどまでに、私は自分の身体の芯が、凍てつくほど冷えているのを感じていた。  私たち森の民エルフが住まう大森林ガーフェルト。  何千年前からここ住んでいたか、最近産まれたばかりの私には知る由もないけれど、そんな長い間生きてきた土地を手放し、新天地へと移動するには訳がある。  扉が開き、慌てた様子で一人の男が入ってきた。  父メルフィムの右腕とも言うべき男、サイラスだった。 「メルフィム様! 偵察に行った者から、すでに瘴気(しょうき)はガーフェルトの西半分を覆い尽くしていたようです!」 「うむ……予想より早いな。準備は?」 「はい! すでに他の者も物資も用意を終えております!」 「では、今すぐ出発を。まだお前のところのに幼子(おさなご)がおっただろう。大人だけより移動に時間がかかる」 「は! では、メルフィム様もルシア様もご準備を!」  サイラスがそう言いながら、私に近付いてくる。  しかしメルフィムはサイラスの動きを制した。 「そやつはいらん。このままここに置いていく。もう話も済んでいる。ただでさえ長旅になるのだ。()()は少ない方がいい」 「なるほど……メルフィム様がそう仰るなら。ふぅ……正直こんな魔力ゼロの無能が、我が子と一緒に遊んでいるのも内心イライラしていたのだ」  そう言いながら、サイラスは今まで私に向けたことのない、ゴミを見るような目つきで私を一瞥した。  エルフの村では、年齢ではなく、その身に宿す魔力の量が地位を決める。  魔力の量は生まれ持った資質で決まり、一定の期間は成長に伴い増えていくが、資質を超えて増えることは決してない。  これは気が遠くなるようなほど長い年月をかけて、先人たちが確認した純然たる事実だ。  エルフは魔法に長け、生活のほとんどを魔法によって成り立たせていると言っても過言ではない。  その源である魔力が大きいものが高い地位を得ると言うのは、至極真っ当なことだろう。  そして……  そのことは魔力の資質を全く持たない私にとっては、残酷極まりないしきたりだった。
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