2人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
1
「最近、有紀ちゃんを見ないけど、どうしたの?」
信子は後輩で一年生の千代美に聞いた。千代美は有紀と一緒に手芸部に入部してきた中学校からの親友同士だった。入部の頃はいつも二人できて楽しそうだったが、近頃は千代美一人で来ていた。しかも、千代美の表情は暗い。
「何かあったの? 喧嘩でもしたの?」
「いえ、違います……」
「じゃあ、どうしたの?」
千代美は答えない。ずっと下を向いている。千代美の両手が制服のブレザーの裾を皺を作るほど強くつかんでいる。
「……喧嘩じゃないんなら良いわ。いずれ戻って来るって思っているわ」
信子はそう言うと、千代美の傍から離れた。
「あの…… 先輩……」
千代美が声をかけてくる。信子は優しい笑顔を千代美に向けた。
「良いわよ。話してみてくれる?」
「え?」
「千代美ちゃんの様子から、有紀ちゃんに何かがあったって分かるわよ」
「……はい…… 実は有紀、ストーカーに遭っているみたいなんです……」
有紀が気にし出したのは二か月ほど前だった。下校時に、いつも通る道にいつも同じ男がいたのだ。
大学生か社会人かは有紀には判断がつかなかったが、道路の脇の電信柱のところに立って、陰気そうな眼差しでじっと有紀を見つめていた。何かをしてくる事は無かったが薄気味が悪かった。なので、帰り道を変えた。しかし、その道にもその男が立っていた。
「そんな時にわたしが相談を受けたんです」
相談を受けた千代美は一緒に帰るようにした。帰る道すがら、ここに男が立っていたとか、あそこからじっと見ていたとか、震える声で有紀は話していた。
有紀と違い勝ち気な千代美は、何か危険な事があったら大声を出して周囲に助けを求めるつもりでいた。しかし、千代美と一緒の時にはその男は現われなかった。有紀も日に日に明るさを取り戻して行った。
そんなある朝……
有紀が家を出ると、門柱のところにその男が立っていたのだ。無表情で、まるで有紀を刺し通すようにギラギラとした眼差しを向けていた。有紀は悲鳴を上げて気を失った。その時に両親もストーカーの事を知った。それ以降、有紀は外出ができなくなった。
最初のコメントを投稿しよう!