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館内で○○しないでください
その映画館は今日で閉館だった。オーナーはタバコの煙をくゆらせながら、売店のアルバイトの子に昔話を聞かせていた。
「昔はな、この映画館は自由奔放だった。いや、無法地帯だったと言うべきかな」
「ヤンキーがいっぱいだったんですか？」
アルバイトの子は、店の売りものであるポップコーンを頬張りながら言った。
「いや、少し違うかな。中には、そういうのもいたけど。なんていうか、とんでもないことをする客が多かったんだ」
「ほおなんふぇふか」
エサをたくわえたハムスターみたいな顔で、アルバイトの子は口を動かした。ポップコーンの食べかすが、カーペットの床にポロポロとこぼれ落ちた。
「たとえば、上映中にカレーライスを食べた客。おかげで館内はカレーのにおいがして、映画に集中できないと大騒ぎだ。他には、館内で酒盛りをおっぱじめた客。しかも酒癖が悪くて、『俺が酒宴男優じゃ』と暴れだしたから大変だったよ」
オーナーは二本目のタバコに火をつけ、思いだし笑いをした。
「まあ、他にも色々いたけどね」
「あー、なるほどです。だから、あちこちに禁止の貼り紙をしてるんですね」
アルバイトの子は、ジュースサーバーからメロンソーダをコップに入れた。ガブガブと飲みながら、色あせた壁に貼られている注意書きに視線を向ける。
禁酒、禁煙、禁排泄、禁カレー、禁ドリアン、禁シュールストレミング、禁イチャイチャ、禁不倫などなど。キリがないぐらいの数の貼り紙があった。
「じゃあ、ここにもう一枚貼り紙をしなきゃいけませんね。『禁サボリ』って」
「いいんだよ。最後だってのに、だれも客がいないんだから」
閑古鳥が鳴く映画館で、オーナーとアルバイトの子は寂しそうに笑った。
お題：「映画館」×「禁酒」×「カレー」
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