16人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ
「大丈夫ですか?」
鮮明に蘇っていた崎本との記憶から、少し高めの男の声で我に返された。
口元を拭いながら、後ろを振り返ると少し離れた所にハイブランドに見を包んだ金髪の男が立っていた。
「え、あっ、ちがくっ」
言葉にならない声を吐きながら、熱くなる涙腺を押さえることもせずに呆然と近づいてくる男を見ていた。
少し前に来た細いパンツに包まれた足がそのままかくっと力が抜けたのがわかった。そりゃそうなるだろう。と思いながら口を開く。
「あの。警察呼びたいんですが、吐いちゃって鞄触りたくな」
くて、電話してもらってもいいですか?
最後まで言い終わる前に男はうわっと声を出しながらお尻がコンクリートにぶつかったのもかかわらず這いずるように立ち上がりながら逃げてしまった。
2度目のそりゃそうなるだろう。と思いながら前を向く。
嘔吐物がかかった崎本の死体。
その前に座り込む嘔吐した後の女。
しかも、嘔吐物がついた手で鞄触りたくないから警察呼んでほしいとか我ながらバカげたことを言った。
傍からみたらやけに落ち着いている様子にみえるだろう。私が殺したと思われても無理はない。
汚れた手を比較的安いトップスに擦り付け、鞄から携帯を取ろうと思ったとき、ビルの奥でキラリと何かが光ったのが見えたと同時に私はまた吐き気をもよおした。
「大丈夫?」
目の前の闇から、聞き覚えのある男の声が聞こえる。
眉間にシワを寄せそちらを見ていると少し月明かりに照らされたよれたワイシャツから伸びるガリガリの長い腕、サイズのあってないようなスラックスを捲りあげてそこから見えている足も骨に皮がついただけに見えるほど細い。
転がっている崎本とはちがい、病的なほど白い男は私の元旦那だと認識するのに時間はかからなかったどころか、いるのも受け入れられた。
崎本を殺したのが、この男ー小山内紫輝だと確信があったからだ。
遠くから聞こえるサイレンの音にさっきの人が警察呼んでくれたか。と安堵しながらも小山内がいる方向から目をそらさなかった。
吐き出しそうになる嘔吐物を飲み込み、焼けそうな喉で小山内に言葉を投げる。
「なんで、殺したの」
「わかってるくせに。」
乾いた笑い声付きで私に投げられた言葉は胸に突き刺さった。
わかっていた。また私のせいだと。
小山内と関係を持ってしまった私の責任だ。
はぁとため息をつくといつの間にか死体を跨いで私の目の前に居た小山内が私の頬に触れた。
「僕から逃げられると思わないでね。」
お決まりの敵のセリフを吐き、ビルの奥に戻った小山内があぁ。とつぶやいた。
「あの男は君のこと疑ってるよ。」
サイレンの音がけたたましくなりお酒が抜けて痛みだした頭に響いた。
最初のコメントを投稿しよう!