さきもと

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ー3か月前 私はジムの退会を済ませ、駅近くのビジネスホテルへと戻った。 小山内と2人で住んでいた一軒家からは、3か月前離婚が決まった時に出ていた。最初は電車で2時間かからないくらいの実家に帰っていたのだが、引越し先も決まり荷物も運ばなければならないしで先週からこちらに戻って来ていた。 夕飯を食べようと、ジムのシャワー室できれいに落とした薄化粧とは違い、丁寧に化粧をする。 緩く巻いた紙を一本にまとめ、黒のスキニーに白いドルマンシャツを来て5cmのヒールに足をいれる。 一人で晩御飯を食べるときはあたかも独身の仕事終わりです感を出すようにしてしまう。そうでもしないとなかなか一人で夕飯時の居酒屋には入りづらいのだ。 ホテルを出て、少し歩いたところにあるこじんまりとした居酒屋の扉をあける。 「いらっしゃいませー」 大学生だろうか元気な声で挨拶をし、テケテケと笑顔で寄ってきた女の子に一人です。と伝えればカウンターに案内される。 19時過ぎの店内、4席しかないテーブル席は仕事終わりのサラリーマンで埋まっていた。 ビールと焼き鳥数本と梅水晶を頼み、携帯を弄りながらサラリーマンの声を聞きながら夕飯を頂く。 お酒は3杯目、そろそろ水割りを頼もうかとすいません。と入口付近にいる案内してくれた女の子の方をみると、扉が開いた。 「少々お待ちくださーい! いらっしゃいませ!何名様ですか?」 丁度入ってきた私服の男性が指を2本たてる。 指を立てた男性の後ろにいたのは先程ジムで出会った崎本という男だった。 私には気づいてないだろう。と思いながらも注文はやめ帰ろうかと思い食後の一服、と煙草に火をつけた。 まだサラリーマンで埋まっているため、カウンターに案内された2人がハイボールを頼んだあと私のもとに女の子が来た。 「おまたせしました!」 ニコニコと注文用紙を持ってこられたものだから最後1杯飲んでからにしよう。梅水晶も残っているし。と思い水割りを頼む。 「あれ?おねーさん!」 その注文の声でバレたのか、1つ席を開けて座っていた崎本が声をかけてきた。 そちらを見て、今気づきましたかのように、あぁ、ジムの。とペコリとすると黒い肌から白いインプラントが見える笑顔をと身体をこちらに向けてきた。 「さっきと印象違うから気づきませんでした!ここ、よく来るんですか?」 「いえ、初めて入りました。」 離婚する前までは、基本的に家で飲んでいた。出不精の小山内は家から出るのは私のスーパーに付き合うときか、深夜のコンビニのどちらもだる着で行ける範囲だけだったからだ。 「あ、僕崎本良二っていいます。んでこっちがジムの後輩の寺田です。」 横にいる黒髪の短髪の男がどうも。とペコリと頭を下げてきた。 「はじめまして。金蔵です。」 「よかったら一緒に飲みません?おごります!」 「いえ、悪いですし。」 「えー、いいじゃないですか。なぁ寺田ー男だけで寂しいもんなぁ」 「そうっすよー飲みましょうよお姉さん。」 大型犬がしょんぼりとした感じの目をして私をみる二人にまぁ別に大して用事もないしと2人の左手を見る。 既婚者は嫉妬深いパートナーだとあとあと面倒なのはわかっていた。指輪がないかの確認だった。指輪もなければ日焼けあともない。 まぁいいか。と少しで良ければ。と答えると嬉しそうに笑い席をつめてきた。 丁度届いたハイボールと水割りで、乾杯をし、質問攻めにあう。 年齢、出身地、仕事は何をしているか、なんでそんな知りたがるものかと思いながらも、少しお酒が回り始めた私も普通に答えていた。 「お姉さん可愛いからこんな男どもと飲んでるってしったら彼氏さん怒らない?」 寺田の言葉に、あっ。と崎本が顔をしかめて寺田を睨んだ。 「そうゆうことは聞かないもんだろ。」 私が金蔵を二重線で訂正し小山内で提出し、退会理由が引っ越しだから感づいていたんだろう。ごめんなさい。と私に謝る崎本に大丈夫です。と伝えるとなんのこと?と言わんばかりに寺田がぽかんと口を開けていた。 「怒られはしないんですがそろそろお暇させてもらいますね。これ。」 10000円札を財布から取り出し机の上に置こうとしたら、崎本似、丁寧に押し返された。 「おごる言うたんだから、ちゃんとおっさんのこと立てて下さい。」 くしゃりと笑った顔に、ありがとうございます。と素直にお礼を言いお札をしまう。 「良かったら、連絡先教えてくれない?」 崎本からの言葉に引っ越したら接点もなくなるだろうから。と断り場を悪くする理由もなく、トークアプリのQRコードを差し出す。 「では、ごちそう様でした。」 「ありがとう!気をつけて帰ってな。」 「お姉さんおやすみなさーい!」 ありがとうございましたー!と元気な女の子の声にごちそうさまでした。と伝え、店を出る。 焼き鳥の煙とタバコの煙が混じった煙たい店内からでて新鮮な空気を取り込む。 すぐに携帯から通知音がなり、よろしくね。と書かれた猫のスタンプが崎本から送られてきた。 『ごちそうさまでした。飲みすぎないでくださいね。』 そう返信をし、飲み直すかとコンビニに向かった。
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