さきもと

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小山内と住んでいた家から運ぶのは自分の衣服や日用品、共同で使っていなかったものだけだったため荷物はすべて宅配便で済ませた。 今から新しい家に行くため、キャリーケースにその日必要なものだけ詰め込み、コロコロと引っ張りながら駅へと向かう。 「金蔵さーん!」 ふと手前に止まった白いハイブリッドカーから降名前を呼びながらおりてきたのは崎本だった。 「どこかご旅行で??」 「いえ。話してた引越しが今日なんです。」 「そうだったんですか!引越しの日教えてくださいっていったじゃないですかー。」 確かに、昨日居酒屋で会ったときどこに引っ越すのかを聞かれ、ここから来るまで20分ほどの中心地の方と答えたら、休みの日とか仕事終わりなら手伝えるんで言ってください!なんて言われた。社交辞令だろうと思いながら受け流していたわけだが... 「本当に手伝ってもらうほど荷物ないんで大丈夫ですよ。」 「あ、けど日用品とか買い物いろいろしなきゃでしょ?良かったら車出しますよ!」 車に親指をひょいと寄せて、ね?と笑った。 「そんな急に悪いですし...」 「もう用事終わってかえるとこだったんですよ!気にしないで!あ、ちょっと片付けるからまってね。」 「え、あっちょ。」 私がお願いするとも答えてないのにもかかわらずバタバタと車に戻る崎本をみて、そこまでされて断るのも忍びない。ととぼとぼと車の方に向かう。 少ししてどうぞ!とキャリーバッグを奪われ、後部座席の扉を開かれる。 「お言葉に甘えてよろしくお願いします。」 私のキャリーバッグをトランクに入れ、運転席に乗り込んだ崎本は嬉しそうに話をし、引越し先の方に向かう途中の店ではなく少し遠い大型店舗の方行きましょうか!と言われお願いする。 「金蔵さんは、何か趣味あるの?僕サーフィンやってて。」 「んー、とくにないです。お酒飲むことくらいしか。」 「はは。昨日も結構のんでたもんね。また飲み行こうよ。今度から繁華街近いしあっちの方よく行くお店とかもあるし。」 「あっちの方あまり行かなかったので、うれしいです。」 信号が赤になった。ウィンカーの音がカチカチと聞こえた。 止まった車内で楽しそうにしていた崎本が急に目を見開き、不自然に腕を横に広げ大きく伸びをして椅子と椅子の間の方に身体を傾けた。 未熟ながら心理学を学んでいる私には不自然この上なくかんじ、隙間からチラリと外を見た。 特にこちらを見ている人はいなく、勘ぐりすぎたか。と思い青信号になり車が発信する。 カチカチと言う音は消え、車は真っ直ぐ進んでいた。 「あ、てか金蔵さん!なんで離婚したの?」 急に大きい声で私に話の脈絡すらなく、声をかけてきた崎本。昨日から離婚のことには触れないでいてくれたからいい人かと思っていたが思い違いだったか。と窓の外をみると、交差点を渡るベビーカーをひいた女性がこちらをみて無表情ながらも目を見開いていた。 あぁ。そうゆうことなのか。と先程の不審な行動はこの人がいたからなのか。妻か子持ちの恋人か。どちらにせよ面倒なことは避けたい。 「めんどくさっ」 「え?なんか言った?」 「いえ、なんでも。生活の不一致です。」 当たり障りのない返事をし、そのままその日は車だけお世話になり、日用品を買い与えてこようとする崎本を制し家の前と嘘をつき一本裏のマンションの前でおろしてもらった。
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