426人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
***
(佐々木先輩ってば、どうして私に声をかけたんだろう? 昨日の居酒屋での、口撃の延長線だったりするのかな?)
午前中にこなさなければならない仕事を抱えているのに、佐々木先輩とのさっきのやり取りが頭から全然離れない。混乱と戸惑いが胸の中を渦巻く。
モヤモヤを吐き出すようにため息をついたら、私のデスクに誰かの手がなにかを素早く置いた。慌てて振り返ったときには、その人はすでに私の背後を通り過ぎていて、大きな背中がフロアの扉から出て行くところだった。
「佐々木先輩?」
佐々木先輩がわざわざメモ帳から引きちぎって置いていった紙片を、なんの気なしに読んでみる。
『珈琲美味かった!
昨日は一緒に呑むことが
できただけじゃなくて、
楽しい時間を過ごせたのが
とても嬉しかった。
松尾、ありがとう。
また行こうな。
俊哉』 万年筆で書かれたと思しき、読みやすい綺麗な文字――コーヒーを漢字で書いてるところといい、今朝のコーヒーの評価から昨日のお礼まで、完璧にこなしているだけじゃなく。
『また行こうな』と私を誘っているのは、なにかの罠だろうか? しかも俊哉という名前まで残すなんて、まるで彼氏のようだと錯覚してしまう。
最初のコメントを投稿しよう!