次の日の出来事!

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***  午前中の仕事をなんとかやり遂げ、次に指示されたものに手をつけた瞬間、肩を二度軽く叩かれた。振り返ると千田課長がいて、フロアの奥にある応接室を親指でさす。 「悪いんだけど、お茶を三つ用意してくれない? ひとつは濃いめで」  独特な注文に、とあるお客様の顔が頭に浮かぶ。 「四菱商事の方が、お見えになっているんですか?」 「そうなんだ。しかも松尾が淹れたお茶が飲みたいと、本人が仰ってね。前回来たときに、えらく褒めていたよ」 「ありがとうございます。すぐにご用意しますね」  デスクの上を整理してからシンクに向かうと、佐々木先輩が書類を手にして、応接室に入るのが目に留まった。 (さっきフロアから出て行ったのは、四菱商事の方をお出迎えするためだったのかな。千田課長にはお茶を三つと言われたけど、佐々木先輩の分をいれて、四つ持って行くか)  指定された濃い目のお茶と、普通のお茶を手際よく用意し、応接室の扉をノックしてから中に入る。 「失礼いたします……」  深い一礼をしたのちに、四菱商事の専務の前にお茶を配膳して、向かい側に座る見慣れた上司と先輩方にお茶を配る。用意した数はぴったりだった。 「そうそう、君だったね。美味いお茶を淹れてくれたのは」  専務は茶碗を手にしながら香りを堪能後、お茶を口にした。 「は~。このちょうどいい濃さと渋みが、お茶の美味さを上手に引き出してる。今日のも美味い!」 「ありがとうございます」 「うちの奥さん、アメリカ人でね。美味いお茶を、なかなか淹れることができないんだよ。ところで君の名前は?」  もう一口お茶をすすった専務に問いかけられて、お盆を胸に抱きしめながら答える。 「松尾笑美と申します……」 「お年はいくつだい?」 「あ、今年で26になりますが」  このままここにいると、これ以上のプライベートな質問をされる予感がして、早く退室したくなった。 「うちの息子は25なんだが、どうだろう。今度逢ってみては――」 (もしや取引先のお偉いさんの息子と、見合いをしなきゃいけなくなった系?) 「綾瀬川専務には、私の年と近い息子さんがいらっしゃったんですね」  ニコニコしながら私の返答を待つ専務に、どうやって失礼のないようにお断りするか、言葉を考えていると。 「松尾には、すでに決まった相手がいますよ」  末席にいる佐々木先輩が乾いた声で、事実じゃないことを告げた。
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