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「ぶっ!」
あまりに衝撃的なセリフに、思わず吹き出してしまい、慌ててお盆で口元を隠した。愛想笑いが、引きつり笑いになっているだろう。
「松尾、彼氏いるのか?」
千田課長は、目の前の専務に視線を飛ばしてから、心配そうな面持ちで私に話しかけた。千田課長の隣に座ってる先輩、そして混乱する原因を作った佐々木先輩も黙ったまま、私をじっと見つめる。
食い入るように見つめるから、それに気がついた。佐々木先輩の膝の上に置いてる左手の動き。さりげなく手首を内側に曲げつつ、人差し指で自分を指し示しているではないか!
「いっ、ぃ、います、彼氏! 綾瀬川専務すみませんっ」
(佐々木先輩ってば、昨日のアレを了承したってことなのぉ!?)
いつもと変わらない冷静沈着で、堂々としている佐々木先輩とは裏腹に、私はしどろもどろに答えて、頭を深く下げた。
せっかくのお見合いを断ったので、罵声に似た言葉を予想していたのに、「別にかまわないよ」なんていう信じられないセリフが、専務からなされる。
「え、へっ?」
聞き間違いだと思って、ちょっとだけ頭をあげながら専務を見ると、ソファに深く腰かけ直して、満面の笑みを顔面に浮かべた。
「若いうちはさ、いろんな人と出逢ったほうが、いい経験になるさ。なぁ千田課長」
「はあ、まぁ……」
大口の取引先相手なので、これ以上お断りできないのは、誰の目から見ても明白だった。
「今回の仕事のこともアイツに知ってほしいし、ちょうどいい。三日後の打ち合わせのときに連れてくるよ。松尾さん、かしこまらずに、軽い気持ちで逢ってやってくれ」
「わかりました……」
言いながら、ちらりと横目で佐々木先輩の様子を窺うと、少しだけ俯いて顎に手を当てて、なにかを考えてる最中だった。照明を受けた銀縁眼鏡のフレームが輝き、シャープな顔立ちをより一層際立たせる。
きつく眉根を寄せて難しそうな顔をしているのに、口角が上がっているせいで、佐々木先輩の心中をまったく読むことができなかった。
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