次の日の出来事!

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「ふたりきりで話せるところは……。そこでいいか」  廊下の突き当りにある、消耗品を保管してある備品庫に引きずり込まれた。呆気にとられる間に佐々木先輩は目の前で鍵をかけて、ふたりきりの空間を作った。私の腕をやんわりと放し、持っていた白紙を手際よく四つ折りにして、ポケットにしまう。 「松尾、大丈夫か?」 「大丈夫じゃないですよ。頭が大混乱状態です。いきなりなんで、あんなことになってしまったのか……」 「だよな、俺も驚いた。付き合ってまだ1日しか経ってないのに、松尾が御曹司と見合いなんて、俺に勝ち目はないだろ」  ほかにも、「相手はハーフだし、きっとイケメンなんだろうな。いやはや参った」と小さな声で呟いて、扉に背中を預ける佐々木先輩に、「それですよ!」と大きな声で叫んでしまった。 「それとは?」  カッコよくメガネのフレームをあげながら問いかけられても、振れ幅の大きい私の心はときめく余裕がなかった。額に手を当てて、いつもより低い声で答えてやる。 「どうして私が、佐々木先輩と付き合ってることになってるんですか?」  「だって昨日おまえに、路上でアプローチされただろ。あの場で俺は断ってない」  目を瞬かせて断言する佐々木先輩のセリフに、私はその場でフリーズしてしまった。なにか言い返したいのにアホ面丸出しで、口をパクパクさせるのが精一杯。 「松尾ってば、俺が彼氏になったことが、そんなに不服だったのか。変な顔してる」 「ち、違いますっ。えっとその……う~ん。佐々木先輩は私のことを全然知らないのに、彼女にしたのが謎すぎて」  驚きとかいろんな感情が相まって、うまく言葉が出てこなかったけど、伝えたかったセリフをなんとか言うことができた。 「確かにな。会社じゃこれまで挨拶くらいしかしてなかったけど、居酒屋でいろんな話をおまえから聞き出すことができたのが、俺の中では好印象だったんだ」  胸の前に腕を組み、嬉しそうに答える佐々木先輩をまじまじと見つめながら、改めて考えてみる。 「いろんなこと……? あの話の中で、佐々木先輩に好印象を与えるようなことを、私は言いましたっけ?」  正直、私としては佐々木先輩に好印象を与えたつもりがなかったので、不思議としか思えなかった。 「元彼とのことはつらい出来事なのに、あえて明るく振る舞って、俺に話をしてくれたろ。三か月前に終わったことだから、気持ち的に松尾はスッキリしているのかと思ったのに、深く掘り下げていったら、割り切れていないことがわかったしな。その真相を探るべく、誘導尋問みたいになったけど」 「そうですよ。佐々木先輩の元カノの話を聞けずじまいでした。ズルいです、フェアじゃない」  さりげなく文句を言って、昨日有耶無耶にされたことを教えると、佐々木先輩はニヤニヤしながらなぜか私に指をさす。 「しかもおまえの口から出る言葉が、どうにもツボに嵌って、笑ってばかりいた。俺の予想を超えることばかり、松尾が言うもんだからさ。それでコイツと付き合ったら、結構面白いんじゃないかというのが決め手だったわけ」  佐々木先輩が付き合うと決めた理由が残念すぎて、笑うに笑えなくなった。自然と頭痛が増していく。
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