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「元彼との付き合いで疲れているであろう松尾に、どうしたら恋愛する気持ちを起こさせることができるだろう?」
「恋愛する気持ち!? それはえっとですね、過度な束縛は嫌です。苦しいですので……」
「わかった。腕の力を緩める」
「やっ、佐々木先輩にされてることじゃなくてですね、何してるっていうLINEを、数分おきに送ってきたり――」
「じゃあ松尾の存在を感じるために、思いっきり抱きしめることはOKなんだな?」
狼狽えまくりの私の言葉に、佐々木先輩は端的に答えながら腕の力を強めたことに、ぎょっとするしかない。いきなりなされた抱擁から逃れるべく、足りない知能を総動員して説得を試みた。
「私としては、刺激の強い触れ合いはちょっと……。少しずつ距離を縮めていくような感じが、いいかもしれません」
わかりにくいと言える説明で、頭にのっていた重みがふっと消える。めでたく頭部が自由になったので、首を動かして振り返ったら、顔のすぐ傍に佐々木先輩のイケメンがあって、驚きのあまりに体をビクつかせてしまった。
(なにやってくれてるんだろこの人は! 佐々木先輩の存在自体が、めちゃくちゃ刺激物だっていうのに。少しは自覚してほしい)
「佐々木先輩、近いですよ……」
「少しずつ距離を縮めていくのって、こんな感じか?」
佐々木先輩の艶のある低い声が耳に届いたときには、頬にキスをされてしまった。しかも唇のすぐ傍という微妙な場所にされてしまったため、喋ることはおろか、下手に動いて振りほどくこともできない。
「松尾の頬、すごく熱くなってる」
「しっ、刺激の強い触れ合いはNGですっ!」
静かな備品庫に、私の声が妙に響き渡った。
「頬にキスなんて、子どもでもするだろ。俺なりに、これでも譲歩してるんだけど」
「それでも私には、刺激が強すぎます!」
「俺としてはもっと刺激の強いコト、積極的にしたんだけど?」
吐息をかけながらすごいセリフを告げられた私は、これまでの刺激も相まって、頭が一瞬でオーバーヒートした。
「むっ、むむむむ無理です! 死んじゃいます!」
体を強ばらせて情けない声を発したら、佐々木先輩は私の肩口に顔を押しつけて、小刻みに震えた。
「うっ……」
「佐々木先輩?」
怖々と話しかけると、抱きしめる腕の力が痛いくらいに強まった。縋りつくようなそれに、もしや泣いているのかもと思わされる。
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