唐突にはじまったお付き合い!

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 佐々木先輩に突きつけられた言葉は、私に衝撃を与えた。それこそ、好きだと言われたときと同じくらいに。 「俺自身もそこまで器用じゃないから、誤解させるような言動をすることがあるかもしれない。だけどつらいことを笑って誤魔化すようなマネは、絶対にしない」 「…………」 「好きな相手には、きちんと向き合って好きって言うし、腹が立つことがあったらムカついたって言う」  佐々木先輩が言ったことは、当たり前のことだと思う。誰もがしている素直な行動だけど、私にとってそれはできないことだった。マイナスの感情は、第三者を不快にさせる。そして雰囲気を悪くするもの。だからそうさせないために、私は笑っていなければならない。  しぼんでいた私の笑いが、口の端に表れる。ちょっとだけ引きつってるかもしれないけれど、顔をしっかり上げて、それを佐々木先輩に見せた。 「松尾……?」 「私は佐々木先輩みたいに、素直に感情を出せません。こうやって笑うことで、やり過ごすのが癖になっていまして」 (きっと、情けない笑顔になっているだろうな。それでも笑わずにはいられないという――) 「俺は別にかまわない」  端的なきっぱりとした言葉なのに、とても優しく耳に届いた。 「えっ?」 「松尾が俺のことを好きになって、安心できるヤツだってわかってくれたときにはきっと、本当の笑顔がみられると思ってる。だからどうしたら俺を好きになってくれるのか、それが最大の問題だなぁと、現在進行形で頭を悩ませているところだ」  ふたたび箸を手に取り、美味しそうに社食を口に運ぶ佐々木先輩に、私は言葉が出なかった。  少しずつ距離を縮めていく感じを、佐々木先輩にお願いしたおかげなのかな。無理強いせずに、私の気持ちを慮ってくれるいい人。  社食を一緒に食べたあのときはそう思ったのに、今は私が心配する気持ちなんて露知らず、むしろなにも喋らせないという気迫が、隣からひしひしと漂っていた。
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