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「佐々木くん悪いけど、女同士で大事な話をするから、席を外してくれない?」
お局グループのリーダー梅本さんが、厳しさを感じさせる声色で口火を切った。
えも言われぬとげとげしさを耳で感じた途端に、私はビビっちゃって、ひゅっと息を飲んだというのに、佐々木先輩は顔色ひとつ変えずに、ただ一言。
「ここでなにがおこなわれるのかわかっていながら、彼氏として見過ごすわけにはいかない。よって席を外す義理はない」
いつもより低い声で、ハッキリと言い放った。梅本さんのとげのある声に対し、佐々木先輩のはそれを跳ね返すような固い質の声だった。
「女同士の話し合いに、口出ししてほしくないんだけど」
「1対5はおかしい。俺を外したければ、タイマンでの話し合いを要求する」
(私としては、5人相手だろうがタイマンだろうが、両方イヤですけどね!)
結局、叱責される数が多いか少ないかの違いなので、どっちに転んでも避けたかった。
お局グループは佐々木先輩の提案に、顔を寄せ合ってヒソヒソ話をしてから、意見がまとまったところで、梅本さんが仕方なさそうな様子で重たい口を開く。
「このままじゃ埒が開かないから、佐々木くんがいてもいいわよ」
目の前にいる5人とも、苛立った雰囲気をまとって私たちを見つめる。チクチク突き刺さるその視線を感じたくなくて、私は終始俯いた。
「君たちには昨日も言ったが、松尾に落ち度はない。自分たちができなかったことを、松尾がやってのけたのが悔しくて、ここでコイツを貶めるようなことを言うつもりだったんだろ」
(自分たちができなかったこと? そもそも私は、なにをやらかしたんだっけ?)
アレコレ考えながら、隣にいる佐々木先輩を横目で眺めた。
「じゃあ佐々木くんに聞くけど、いつの間に松尾さんと付き合っていたの? 四菱商事のお見合いの話がきっかけになったにしては、タイミングが良すぎるでしょ」
梅本さんが言い終える前に、佐々木先輩は隣でニヤッと笑った。口元だけで微笑んで、目元にまったく変化がないそれは、笑ったというよりも、小馬鹿にしているような嫌な笑みだった。
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