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(佐々木先輩にお礼を言えないまま、この日が来てしまった……)
前日同様にいろいろやらかしてしまったせいで、どうにも恥ずかしくて、佐々木先輩と一緒にいられないと思った私は、午後からの仕事を終えるなり、逃げるようにフロアの扉に向かった。
ちらりと振り返ると、佐々木先輩は千田課長となにやら話し込んでいる最中で、私のことを追いかけるなんていう余裕はなさそうだった。
そして四菱商事の専務と息子さんがお見えになる、運命の日。私はいつもどおり人数分のお茶と専務専用の濃いお茶を淹れて、会議室に顔を出した。
「失礼いたします」
「あっ、はじめまして。こんにちは!」
一礼して入室すると、爽やかさを感じさせる、聞いたことのない男性の声がした。その声に引き寄せられるように頭をあげて、その人を見た瞬間、空気中にはないはずのキラキラしたものが飛んでいて、目に眩しく映った。
(見慣れた会議室なのに、この人がいるだけで別世界になっているのは、どうしてなんだろう?)
お茶を配膳するのを忘れて、口を開けっぱなしのまま、そこのいる彼に目を奪われてしまう。なんていうか、芸能人に突然遭遇したような気分だった。
金髪に近い茶髪が窓から差し込む陽の光を受けて、眩しいくらいに輝いているのに、それに負けないのがエメラルドグリーンの瞳だった。堀の深い顔立ちや透明感のある緑色の瞳、色白の肌や高身長などなど、目の前にいる日本人の専務の血を受け継いでいるとは、どうしても思えない。
「おーい松尾さん、彼がすごいイケメンなのは見てのとおりだから、いつまでも固まっていないで、お茶をお配りして」
恥ずかしながら千田課長に促されるまで、魂がどこかに抜けている状態でいた。
「すっ、すみません! ただいまご用意いたします‼︎」
頬の熱を感じつつ、慌てふためきながらお茶を配ったところで、この場に佐々木先輩がいないことに、はじめて気がついた。
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