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「松尾、紹介する。専務の息子さんの綾瀬川澄司くんだ」
千田課長が彼の隣に並んで、にこやかに紹介してくれた。千田課長自身の身長は、佐々木先輩よりも少しだけ低いと記憶していたのだけれど、綾瀬川さんの目線の位置に、千田課長の頭があった。
「綾瀬川さん、はじめまして。松尾笑美と申します!」
目を見張るイケメン具合に緊張してしまい、お盆を胸に抱きしめながら、ぺこぺこ頭をさげまくる。すると目の前に歩み出た綾瀬川さんが、スマートに右手を差し出した。
「エミさんって、どんな漢字を書くんですか?」
おそる恐る握手をしたら、手を握りしめたまま訊ねられた。
「笑顔の笑に美しいです……」
漢字を聞かれると困惑して、いつもぎこちなく笑っていた。名が体を表していないので、申し訳なさを痛感してしまう。
「いいお名前ですね。笑顔がとてもチャーミングです」
「あ、ありがとうございます……」
握手から解放されずに、ぎゅっと右手を握りしめたままの状態は、非常につらかった。しかも迫力満点のイケメンに、まじまじと見つめられる覚えもない。
対応に困る私を目の当たりにして、千田課長はソファを指し示した。
「綾瀬川さん、専務の隣にどうぞ。松尾は向かい側に座って」
(挨拶も終わったし、もう早くここから出たい! できることなら、家に帰りたいくらいだよ……)
千田課長に促されてお互い着席したタイミングで、専務が美味しそうにお茶を口にする。
「松尾さん、今日のお茶も実に美味しい。いつもより美味しく感じるのは、もしかして気合いを入れたからかな?」
「気合い……なんて入れてません。いつもどおりお出ししたまでです」
キラキラ眩しい綾瀬川さんを見ないように、専務の脂ぎった顔を見つめることに集中した。普段見慣れている分だけ、落ち着きを取り戻すことができそうだった。
「ホントだ、すごく美味しい!」
感嘆の声をあげた綾瀬川さんに、専務が「そうだろう、おまえにもわかるか」なんて、親子らしい会話を展開していく。そんな微笑ましい様子を千田課長はニコニコしながら眺め、私は恐縮しながらお礼を告げた。
「笑美さんよろしければ、お茶の淹れ方を教えていただけませんか?」
「ええっ! 普通に淹れてるだけですけど……」
「松尾、教えてさしあげなさい」
有無を言わさず千田課長に命令されたので、仕方なく腰をあげる。廊下に出る扉を開ける私とは対象的に、千田課長はフロアに続く扉を開けて、加藤先輩を呼び寄せた。
(いつもなら一緒に、佐々木先輩も呼ぶのに……)
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