ところ変わりまして!

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「やらないぞ」 「はい?」  力のあるまなざしで私を睨む佐々木先輩に、理由がわからなくて首を傾げてみせた。 「モノ欲しげに俺を見てた。そんなに間接キスがしたいのか?」 「ちっ違いますよ! 佐々木先輩じゃなくて、ビールを見ていたんですってば」  手にしていたおしぼりを放り出し、両手を左右に振って全力で否定した。 「そんなふうに、否定しなくてもいいじゃないか。俺の彼女に立候補したクセに!」 「や、あれは冗談といいますか、そのときのノリというか、そんな感じなんです……」  俯きながら体を小さくするしかない。仕事が恋人の佐々木先輩に、恋人になりたいですとアピールした時点で、バッサリ断られると思った。それなのに断るどころか、こうして一緒に飲みに行くことになろうとは奇跡に近い。  そして恋人になれるわけがないという変な自信があるからこそ、変な質問を堂々とぶちかましているところもあったりする。 「冗談であんなことを言える松尾の神経は、やっぱりすごいな」 「佐々木先輩は私から見ても、高嶺の花ですし、相手にしてもらえないことくらい、重々承知してます……」 「なに言ってるんだ。俺は断ってないだろ」  その言葉にギョッとして、慌てて顔をあげる。すると至極真面目な顔した佐々木先輩の右手が伸ばされ、私の頬に触れた。 「さささ佐々木先輩っ!」  慌てふためきながら頬を染める私を尻目に、細長い指先が頬の皮膚に触れてから、顎のラインをなぞるようにさがっていく。顔をあげてるというのに、佐々木先輩の手に力が込められて、さらに上向かせられた。 「高嶺の花とか言ってるけど、松尾は俺のことを男として意識してないよな」  メガネの奥の瞳が、意味ありげに細められる。恥ずかしくて視線を外したいのに、この状態では絶対に無理だった。 「現在進行形で、ものすごく意識してますよ! 本当に!!」 「こういう直接的なコミュニケーションをしなきゃ、意識されない俺の気持ち、松尾はなにもわかってないだろうな」  顎に触れていた手が、おろしている髪の毛に移動した。髪の一束を人差し指にくるくる巻きつけているのを、横目で確認する。
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