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②-2
あの運命の出会いの日。
眠った玲奈の額にくちづけをして、ジュリオはあちらへと戻った。
そしてその足で神殿に向かった。
玲奈との婚姻のためである。
「すると神官どもは、相手も連れずに来ても婚姻はできないとぬかすのです」
「先生、そりゃそうだろ? そろって神に愛を宣誓することで婚姻が成立するんだぞ」
現在、ジュリオ氏とアクセル君の事情聴取中であります。
服をはだけた玲奈は毛布で包まれベッドに座る半裸のジュリオの足の間に抱き込まれている。
隠すよりTシャツを着させてくれ。
アクセル君はジュリオ氏の雪玉にぼこぼこにされて、床に正座させられていた。
「れいなの誓いの言葉は魔術で録音してあったので、神の御前に立たせてくれればよかったのに、それをさせようとしない神官どもに苛立った私は、神殿に雷を落とし、雹を降らせました」
「雹はあんただと思ったけどさ、あの雷も先生だったのかよ……!」
誓いの言葉ってもしかして、めちゃくちゃイカされながら私を愛してますか? 愛してると言いなさい、と言うジュリオに、「愛してる、ジュリオ!」て言ったあれか!?
前後の喘ぎ声入ってるよね? あれを録音して、神前で流したってこと?!
固まる玲奈の髪になぜかジュリオは優しくキスをし、話を続けた。
すると、早朝から神殿にいた王子たちとアクセル君、平民主人公ちゃんが神官に連れられてきた。
なにかイベント中だったのだろう。宰相の息子は? 仲間外れなのかい……?
「よくわからないまま連れてこられて、神官にジュリオ先生を説得してくれって言われて……」
「平民の小娘が、『ジュリオ先生、私のためにこんなことしないでください』とかぬかしたのです。王子を両手に侍らせながら。なんだかとても苛立った私は、王子とついでにアクセル・グランディスの精神を魔術で操作しました。女という女の顔にムカデが這いずり回って見えるように」
「ひえっ」
「やっぱり! やっぱり先生だったんだな! 俺ついでだったのかよ! なんであの子に苛ついて俺たちにそんなことすんだよ!」
アクセル君がごもっともな叫びを上げた。
「平民の小娘は王子たちに言い寄られていい気になっていましたからね。王子たちに逃げられるのが一番の嫌がらせだと思いまして。ふふふ、あの王子たちはムカデが怖いんですよ、この私が彼らの幼少期によくベッドに入れてましたからね、たくさんのムカデ」
「あ、あれも先生だったのかよ! なんてことするんだ、王子たちがかわいそうだろ!」
ほんとなんてことしてるのジュリオ氏!
きっと自分だって王子だったのに、みたいな感情のせいだと思うけど、ベッドにムカデって……玲奈は想像しただけで鳥肌が立った。
「王子たちはもちろん小娘から悲鳴をあげて離れました。そうしたら小娘が、彼らを追いかけ回しましてねぇ……2人とも泡を吹いて気絶しました。傑作でした」
「後ろにいた俺からはあの子の顔は見えなくて……帰ってうちのメイドに迎えられて初めてムカデが顔中這ってるの見て、それから女という女の顔に……お、オェェ! ひどいぞ先生、もういいだろ!?」
「そうしているうちに国王がやってきましてね。雹の降る神殿に倒れた王子たちと泣く小娘を見て、声を荒げたのです。なにをしている、全て元どおりにせよ、と」
「先生、俺の話も聞いてくれよ……。しかしなんで国王陛下来たんだろうな。あんな早朝から走ってきてびっくりした」
実は王弟なジュリオ氏だから、国王に行動を見張られていたのかもしれない。
なんにせよいきなり王が来るって驚きだ。
「私は婚姻の宣誓がしたいというのに、次から次へと鬱陶しく、苛立った私は国王に、頭髪を模したものを寄せ付けない魔術をかけました」
頭髪を模したものを寄せ付けない魔術?
玲奈はちょっと意味がわからなくて首を捻った。
「あれ、そういうことだったのか! 突然陛下のヅラが吹っ飛んで……俺、ヅラって知らなかったから、めちゃくちゃ笑っちゃったんだよ、陛下ぜったい怒ってるよどうしてくれんだよ先生……!」
「ぶっふぉ……!」
「国王は飛んだ頭髪を模したものを追いかけましたが、寄せ付けませんからまた飛んでしまいます。落ちたそれを神官が拾いまして、国王に渡そうとしたら、……これは私も本当に予想外だったのですが、その神官も帽子に頭髪を模したものを縫い付けていたようで。それが吹っ飛んだのです」
「ぶふふぉ! ぶふふ!」
「あ、あれは、くくふふ、やばかった、爆笑した、ひゃひゃひゃ!」
やべぇ! それは面白映像すぎる!
「その様子を見て、かなりの数の神官が国王から距離をとりました。彼らも頭髪付き帽子
を被っていたのでしょう」
「じいさんばっかりだからな、神官……! うひゃひゃひゃひゃ!」
「そこで私は言ったのです。すぐに私を神の御前に案内するのなら、魔術は解除しましょう、と。頭髪付き帽子(予想)の神官がすぐに案内してくれ、私はれいなとの婚姻を宣誓し、神にいただいた婚姻証明を王宮の窓口に提出したのです。そして私たちは晴れて夫婦になりました」
「先生、それなら約束が違うぞ! 魔術解いてないじゃないか! 俺まだ女がみんなムカデだらけに……」
「解きましたよ? 雹を降らすのはやめました」
しれっとジュリオ氏は言った。
じゃあ国王のヅラもまだ飛び続けてるの……!?
ジュリオ・エンディミオン氏、めちゃくちゃ! めちゃくちゃにもほどがあるよ!
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