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③-1
「ふんふんふーん♪ふらいーどちきんー♪」
今日は仕事の帰りに、みんな大好きなお店のフライドチキンを買ってきた。
ジュリオ氏はチキンが好きだから、と奮発してちょっと多めに買ってしまった。
しかし乙女ゲームの攻略対象と食べるためにチキンを奮発したとか言葉にすると頭がどうかしている気がする……。
シャワーを浴びて、湯上りのコーヒー牛乳を飲んでいると、珍しく妹からゲームアプリに関係ないメッセージが来た。
『おねえちゃん、うちに妹がきたよ!』
「ふぁ!?」
52歳母、高齢出産か!?
慌てて添付画像を開くと、私のかわいいみーちゃんが、白い子猫にキッスしているところが写っていた。
『早川みるく0歳だよ! おねえちゃんにもあいたいにゃーん!』
ちなみに妹の名前は早川未唯奈。
玲奈の癒しユニットダブルみーちゃんの誕生であった。
あまりに尊い画像に、めちゃくちゃハートを送信した。
ジュリオが座りやすいように買ったダイニングテーブルにお皿を並べて、とん、とアプリをタップする。
ダイニングに座るとジュリオの長い足でも窮屈じゃなさそうで、最近の一番いい買い物だ。
『おかえりなさい、れいな。遅かったですね』
するとすぐに美声が聞こえる。
「暑かったから先にお風呂にしたんだ。私の一番好きなチキンも買ってきたし! いっしょに食べよう!」
しかしいつもならすぐにずるりにゅるりと現れるジュリオ氏がこない。
画面を見るといつも美しく微笑んでいる立ち絵が怒っているような表情だ。
片手にドライバーみたいな道具を持っている。
「……ジュリオ氏?今日は来ないの?」
なにを怒っているんだろう、と悲しくなってしまう。
『ああ、れいな、そんな悲しい声を出さないでください。私の部屋にいろいろ魔術や罠が仕掛けられていたので、解除していたのです。たいした仕掛けはないですが数が多くて……もうこの部屋は放棄したほうがいいかもしれません』
ジュリオ氏、ムカデにヅラ飛ばしに、人の恨みを買いすぎているのでは……。
そして部屋を放棄ってなに?
「そ、そっかぁ、寂しいけど先に食べてるね。がんばってねジュリオ氏」
フライドチキン、すっごくおいしいのに。先に食べちゃうんだからねーだ!
チキンをひとつ取ろうと箱を開けかけて、画面に写るあるものが目に入った。
「ジュリオ氏も猫飼い始めたの?」
『……猫?』
「うん、写ってるよ、白い猫」
画面の右下あたりに、小さな白い猫が映り込んでいたのだ。
『私は猫など……おまえ! クソガキか!』
がちゃん! ずがん!
「えっ」
ものすごい音が聞こえ、画面が真っ白になった。
「ジュリオ氏!?」
慌ててスマホに手を伸ばすと、
『にゃーーーーー!』
かわいらしい声を響かせて、画面から白い猫がずばんと飛び出してきた。
「ね、ねこ!」
玲奈は思わず抱きとめた。
画面越しには白に見えた毛並みは紫がかった銀色だ。
『クソガキ! どこだ! バーソロミュー!』
「バーソロミュー?」
ジュリオ氏の言葉に首をかしげる。
バーソロミューってたしか……
「ミューって呼んで?」
胸に抱いた猫が、淡い紫の瞳を煌めかせて言った。
と思ったらぼふん! と煙を上げて……ジュリオ氏が教鞭を取る、乙女ゲーム学園の制服を着た男の子に変身した。
毛先にかけて紫になっている銀髪に、淡い紫の瞳。
リアルで見るとありえないカラーリングの美少年。
攻略対象の第二王子、バーソロミュー・アルケイディア(16)だった。
玲奈と変わらない背丈の彼はかわいらしくにこりと笑った。
「お姉さん、ジュリオ・クソ教師・エンディミオンの奥さんなんでしょ? お姉さんにはなーんにも恨みはないけど、アイツの泣きっ面見るためにひどいことするね。恨むならクソ教師・エンディミオンを恨んでね! きゃはは!」
言いながら空中で指先をちょちょいと回すと、手足にべちょりとしたものが絡みついた。
こ…これは……エロい創作物でおなじみ、触手ーーーーー!?
「きゃーーーー!」
腕をまとめてぎゅん! と吊り上げられ、思わず悲鳴が出てしまう。
『れいな?! あっ! れいな!! 今行く……なんだこのくっそ固い結界! 死ねこのクソガキ!』
がいんごいんと音がするが画面は真っ白のままだが、ジュリオ側からは玲奈が触手に手足を絡めとられた姿が見えるのかもしれない。
声がめちゃくちゃ怒っている。
「そこで嫁がぐちゃぐちゃに犯されるの見てろよクソ教師・エンディミオン! このぼくにおぞましい呪いをかけた報いだよ! きゃははは!」
おぞましい呪いって女という女にムカデが這いずり回って見えるやつでしょ! やっぱりジュリオ氏、恨みを買いすぎですよーーー!
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