異世界もにたぁ

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 大きく重苦しい扉を開くと、そこは異世界だった。 『堤様。ご気分は如何でしょうか?』  ナビ役の社員(犬型)の問いに答えようと、自分自身を確認する。体は自由に動く。痺れも違和感も無い。車酔いのような気分の悪さも無い。視界は良好。足踏みをしても、問題は感じられない。 「体調の変化はありません」  しかし、しかしだ。 「何故、全身肌色タイツに股間に葉っぱを着けているトンチキ衣装に変わっているんですか⁉︎」 『良かったですね。コンプライアンスクリアですよ』 「異世界のコンプライアンスなんて知りませんよ!」  今しがた来たばかりの異世界のコンプライアンスなど知る余地も無い。と言うかコンプライアンスをクリアしたからなんだと言うのか。そもそも全身肌色タイツに葉っぱ一枚はコンプライアンスをクリアしているのか。国の公共放送局ならアウト判定が出そうだが…。 『さあ、異世界探訪へ出かけましょう!』 「ほぼ裸で⁉︎」  物理的な防御力も精神的な防御力も著しく低い。RPGならHP1で始まったようなものだ。武器もないのでスライムだって倒せそうに無い。住民とすらエンカウトしたら(社会的に)死んでしまうかもしれない。 『でも、この世界は裸族が基本かもしれませんし…』 「なんでナビが把握してないんです⁉︎」  由々しき事態である。そんな場所に客を連れて行こうとしているのなら信用問題だ。モニターとは言え、看過できない。 『世界は広いので、全部の探索はできておりません。しかしながら、モニターの皆様はいつでも安全に元の世界に帰る事ができます』 「もう既に信用できないんですけど?」 『同意書があればこちらのものなので…』 「クズだ!この企業、クズだ!」  ナビが犬の生首だけあって畜生の所業である。 『いいんですか?転移の権限はこちらにあるんですよ?』 「コンプライアンスどこ行った⁉︎」  法律には明るくなくても、法律に抵触するだろうと思われる発言である。 「大体…」 『あ』  文句を言い募ろうとした堤を遮り、ナビが不穏な声を漏らす。その異様さに違和感を覚え、振り返ると岩のような獣がいた。 「〜〜〜!」 『転移します!動かないでください!』 「ナビ〜!!!」  堤の足元が光り、体がその光に包まれる。そうして、堤は元の世界へ帰った。
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