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迎えにきたよ。
新宿駅西口。人混みから五歩分奥まったところの公衆電話横。
「お待たせ」
声を出すことなく声をかけると、それは恨みがましい目で私を見上げた。
「もう、こわくないよ。もう、さびしくないよ。もう、許せない自分を、許せるよ」
言い聞かせてなおわたしを睨みつけるそれは、とても可愛らしかった。あんなにも、可愛らしさから最も遠くに立っていると思い込んでいたのに、ああ。
一生懸命に生きているというだけで、生き物というのはこんなに可愛らしいものなんだ。
期せずしてほほえんだ、わたしの顔を見て、それはひどく驚いた。
そして、夢は消えた。
いつまでも待っていた、あの時のわたし。その影を、見て見ぬふりしてきたけど、気まぐれに足を向けたために、よいものを見ることができた。
もう、誰も待たなくていいよ、わたし。
これからは一緒に、どこにだって誰にだって、会いに行こう。
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