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そうして練り上げたそれを、一定の温度まで上げ下げして最も安定した状態の結晶を作り出すテンパリング作業を施してから、板チョコ型に流し入れて冷蔵庫で保管する。
ここまでの作業を終えた時点で、既に夜の8時を過ぎていた。
もう遅いので、この日の作業はここで終了となった。
そして、その翌日。
友季だけはシフトの都合でこの日も休みだったのだが、舞が眠い目を擦りながら出勤すると、そこには既に友季がいた。
「おはよう。クマ出来てるな……」
友季は舞の顔を見るなり、心配そうに彼女の目の下に優しく触れる。
「シェフ、イチャつきに来ただけなら帰って下さい。邪魔です」
すぐに上田に睨まれ、
「試作品を取りに来ただけなのに、酷い言われ様だな」
友季は唇を尖らせた。
「へぇー、その試作品って鈴原さんのことなんですか?」
上田にじとっとした目で見られ、
「分かったって。もう帰るから」
友季は昨日作った板チョコを持ち出すと、そのまますぐに帰ってしまった。
友季がいない厨房を寂しく思いながらも、舞は何とか無事に一日の仕事を終え――
制服から私服へと着替えて、更衣室を出ると、
「舞」
甘く優しい笑顔を浮かべる友季の幻覚を、見たような気がした。
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