イチゴショート

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「事務室に救急箱があるから、行こうか」 そして、そのまま舞の手を引いて移動しようとする。 「あっ、あの、大丈夫なので自分で――」 そう言いかけた時、 「どうした?」 不機嫌そうな声をかけられて、 「……」 嫌々後ろを振り返ると、 「……オーナー」 店の見回りが終わったらしい友季が立っていた。 「鈴原さんが、指切っちゃったみたいで」 相変わらず舞の手を掴んだままの山田に、 「山田さん、ドレの途中なんだろ? あとは俺が見るから、先にアップルパイ焼いてきちゃって」 口調は穏やかだが、目つきが鋭くなっている友季が、そんな指示を出した。 「……はい」 何か不満に思うことがあったのか、返事に一瞬の間があった山田は、(ようや)く舞の手を離した。 オーブン前に置かれている作業台に戻った彼の姿を見届けてから、 「皆、俺がいいって言うまでは、ここの作業台に近付かないでね」 血液が床に落ちていた場合、踏み広げてしまう可能性があるので、現場にそう声掛けをした友季は、 「鈴原、こっち」 友季が厨房に隣接している事務室に舞を手招きした。 「あの……先に現場の血の確認とか処理をしなくていいんですか?」 舞が慌てて訊ねると、 「手当てのが先」 友季は即答し、 「そのままの状態で現場うろつかれる方が迷惑」 ぶっきらぼうにそんな言葉を付け加えた。
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