719人が本棚に入れています
本棚に追加
「事務室に救急箱があるから、行こうか」
そして、そのまま舞の手を引いて移動しようとする。
「あっ、あの、大丈夫なので自分で――」
そう言いかけた時、
「どうした?」
不機嫌そうな声をかけられて、
「……」
嫌々後ろを振り返ると、
「……オーナー」
店の見回りが終わったらしい友季が立っていた。
「鈴原さんが、指切っちゃったみたいで」
相変わらず舞の手を掴んだままの山田に、
「山田さん、ドレの途中なんだろ? あとは俺が見るから、先にアップルパイ焼いてきちゃって」
口調は穏やかだが、目つきが鋭くなっている友季が、そんな指示を出した。
「……はい」
何か不満に思うことがあったのか、返事に一瞬の間があった山田は、漸く舞の手を離した。
オーブン前に置かれている作業台に戻った彼の姿を見届けてから、
「皆、俺がいいって言うまでは、ここの作業台に近付かないでね」
血液が床に落ちていた場合、踏み広げてしまう可能性があるので、現場にそう声掛けをした友季は、
「鈴原、こっち」
友季が厨房に隣接している事務室に舞を手招きした。
「あの……先に現場の血の確認とか処理をしなくていいんですか?」
舞が慌てて訊ねると、
「手当てのが先」
友季は即答し、
「そのままの状態で現場うろつかれる方が迷惑」
ぶっきらぼうにそんな言葉を付け加えた。
最初のコメントを投稿しよう!