プロローグ

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やっと泣き止んだ舞は、 「お兄ちゃん、お医者さんなの?」 絆創膏を箱ごと持っている彼を見て、首を傾げた。 「あ……俺、お菓子作るんだけど、その時によく怪我するから」 彼は答えてから、あっそうだ、と小さく呟く。 鞄の中をゴソゴソと探り、 「お嬢ちゃん、痛いのガマン出来たから、ご褒美にこれあげる」 セロハン製の袋に入ったチョコチップクッキーを取り出して、舞に差し出した。 袋の中のそれを1つかじった舞は、 「おいしーい!」 途端に笑顔に。 「お兄ちゃんが作ったの!? すごーい!」 「パティシエ目指してるからね」 「ぱてぃしえって、なぁに?」 初めて聞く単語に舞が首を傾げると、 「ケーキ屋さんだよ」 彼も笑顔で教えてくれた。 「私も! 私もケーキ屋さんになるー!」 元気に答えた舞に、 「おっ。じゃあ将来の俺のライバルだな」 そんな台詞を言いながらも、彼は嬉しそうに笑っていた。 そんな、名前も知らない彼の笑顔と甘く美味しかったチョコチップクッキーの思い出を胸に、舞はパティシエになるという夢を目指す――
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