717人が本棚に入れています
本棚に追加
「トモ、くん……?」
とろんとした目で友季を見上げる舞に、
「……っ」
友季はまた手を伸ばしそうになったが、それをぐっと堪えた。
そのままソファーから慌てて立ち上がり、
「風呂の用意してくるから、舞はゆっくりしてて」
逃げるようにバスルームへと向かった。
浴槽を軽く洗い、シャワーで泡を流して。
シャワーヘッドをホルダーにかけて、お湯を張るために蛇口のハンドルを捻り――
“シャワー”から“カラン”へ、レバーを切り替えるのを忘れていたので、
「うわっ!」
友季は頭から盛大に水を被った。
先程使用していた余韻で、出てきたのはまだ温かいお湯ではあったが、涼しくなってきた今の季節は、濡れた服がすぐに冷たくなる。
慌てて水を止め、
「動揺しすぎだろ、俺……」
余裕のなさすぎる自分に心底うんざりした。
もうこの部屋に住んで数年が経つが、こんな初歩的なミスは今回が初めてだった。
リビングの方から、とたとたと足音が近付いてきて、
「何か悲鳴が聞こえたけど――って、大丈夫!?」
髪から水が滴り落ちている友季を見た舞は、近くにあったバスタオルを慌てて手に取った。
それを友季へ差し出しながら、不思議そうに首を捻る。
「……水も滴るいい男ごっこ?」
「それは礼を言うべきなのか、突っ込むべきなのか、どっちなんだ?」
友季はタオルを受け取りながら、複雑そうな顔をした。
最初のコメントを投稿しよう!