チョコチップクッキー

29/45
前へ
/270ページ
次へ
「舞も一緒に寝よ」 友季のそんな声に、 「……うん」 舞は素直に頷くしかなくて。 いつものように、舞はベッドの中で友季に抱き締められる。 既にうとうとしていた友季はまたすぐに深い眠りに()ちていき、 「……私だけ、馬鹿みたい」 舞は不満そうに唇を尖らせた後、 「おやすみ、トモくん」 どうせ届かないだろうとは思うが、一応は挨拶をして目を閉じた。 今日は色々あって疲れていたらしく、舞もすぐに静かな寝息を立て始める。 舞が眠りについてしばらく経ってから、 「……はぁ……」 友季が暗闇の中で瞬きを繰り返し、小さく溜息をついた。 本当は、舞の項でうとうとなんかしていなかった。 正直な気持ちを伝えてしまった後で、あの甘い空気に耐え切れず、咄嗟(とっさ)に寝たフリをしてしまったのだ。 あのまま舞の言葉を受け止めていたら、きっと今頃は舞に無理矢理迫っていたと思うから。 何よりも大切な舞と、その場の流れと勢いで……なんてそんないい加減なことは絶対にしたくなかった。 舞には、ムードクラッシャーだと思われてもいい。 (むし)ろ、そう思われた方が光栄なくらいだ。 「おやすみ、舞。愛してるよ」 友季が舞の髪を優しく撫でると、 「……ん……」 カーテンの隙間から射す月明かりに照らされた舞が、眠ったまま幸せそうに微笑むのが見えた。 (……可愛い。ずっと見てたい。ドキドキして寝られない) 明日は寝不足での出勤が確定したが、友季はそれすらも幸せだと感じた。
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

717人が本棚に入れています
本棚に追加