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「あー。シェフ、極度の女性嫌いですもんね」
上田も思い出したように言い、
(えっ? そうなの!?)
友季に擦り寄る美人記者の様子を見てしまったせいで、すっかり不安になっていた舞は驚いて友季の方を振り返った。
その時に、友季と目が合い――
途端に友季がふわりと柔らかく微笑んだ。
「!」
焼き上がったシュー生地にクリームを詰める作業をしていた舞の手から、クリームの入った絞り袋が滑り落ちる。
「あっ!」
絞り袋の先からクリームが溢れてきて、べちょっと台に付いた。
慌てて台を拭く舞に、友季がそっと近付く。
「俺は舞しか見えてないから」
友季に耳元でこっそりと囁かれて、
「!」
動揺した舞は、台を拭いていたダスターを床に落としてしまった。
「あーあ。ちゃんと綺麗に洗っとけよ」
呆れた顔をする友季に、
(トモくんのせいなのに!!)
舞はそう叫びたいのを我慢しながら、
「分かってます」
低めの声でぼそりと答え、拾ったダスターを洗いにシンクへ向かう。
その後を友季がついてきて、
「ツンデレ?」
「都合のいい解釈しないで下さい」
「やっぱりツンデレだ」
「今、“デレ”の要素ひとつもなかったですよね?」
他愛ない会話が繰り広げられる。
2人きりの時とは違い、職場では少し冷たくなる舞の態度も、
(このギャップもいいんだよな)
友季が強く惹かれている要因なのだが、舞本人は全く気付いていない。
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