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「そういえば、シェフ」
木村が不思議そうな顔でスポンジの仕込みをしながら、友季に声をかけた。
「さっき荷物が届いたんすけど」
「あ。やっと来たか」
友季は舞から離れ、裏口近くの台の上に置かれたダンボール箱を覗き込んだ。
中には、チョコレートの原材料であるカカオマスとカカオバターが入っていて。
「次はチョコレートブランドでも立ち上げる気ですか?」
木村は少しうんざりした顔を友季へと向けたが、友季は首を横に振る。
「いや、俺の記憶通りの配合で成功したら、チョコのメーカーに作ってもらえないか相談するつもり。だから、まずはデータが必要でな」
「……は?」
友季が何を作るつもりなのかを知らない木村は、首を傾げた。
舞も、友季の後ろからそっと箱の中を覗き込む。
丸いタブレット状のカカオマスと、大きなブロック状のカカオバターが見えた。
カカオマスの匂いだろうか。
舞のよく知るチョコレートよりも酸味の強そうな匂いがする。
「これでチョコが出来るんですか」
噂には聞いていたが、現物を見たのは初めてだった。
「うん。二度とやりたくないと思うくらい手間がかかるから、今度の店の休みに作ろうかな」
友季は珍しく嫌そうな顔をしている。
口溶けの滑らかなチョコを作るには、とてつもない時間と手間がかかるのだ。
それを高校生時代にその場の思いつきでやってしまったのは、若気の至りと言うやつか。
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