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カカオマスとカカオバターから作るチョコレートは、混ぜて溶かしてまた固める、なんて単純な作業なんかではなくて。
滑らかさを出すために、すり潰しては目の細かい網で漉して、それを更に細かくすり潰してまた網で漉して……を、永遠かと思えるくらいに何度も繰り返す。
十分な滑らかさが出たら、更に滑らかにするために湯煎で一定の温度を保ちながらひたすらに練り上げていく。
この練り上げ作業は、チョコレートの製造を生業としているメーカーでは数日間に渡り行われているらしい。
専用の機械もないケーキ屋の厨房でそんなことは出来ないので、諦めてこの日1日を費やすだけと決めていた。
「トモくん……」
ゴムベラを持ってひたすら練り作業をしている舞が、友季をちらりと見た。
「これ、本当に高校生がしてたの?」
友季はチョコの入ったボウルと温度計を支えながら、
「……たまに登校拒否になったりして引き籠ってたから、時間はたっぷりあったんだ」
それにしても1人でよくやったな、と過去の自分に感心した。
あの時は作業の辛さよりも、いじめられているという現実から逃げたくて、ひたすら無心で作っていた気がする。
「あ、10分経ったぞ。交代するか?」
「うん、お願い」
10分毎に役割を交代するというルールで、ひたすら練り上げていった。
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