イチゴショート

3/20
695人が本棚に入れています
本棚に追加
/270ページ
舞は、勇気を振り絞って厨房の中に一歩踏み入った。 「お、おはようございます!」 「……んあ? 誰だ、お前」 裏口に一番近い場所に立っていた友季が気付き、舞を睨みつける。 (……テレビと表情(カオ)が違う! 感じ悪い!!) 舞はそう思ったが、 「本日からこちらでお世話になります鈴原 舞です! よろしくお願いします!」 顔には出さずに元気良く頭を下げた。 その声に気が付いた女性スタッフの1人が、慌ててこちらにやってくる。 「鈴原さん! ごめんね、気付かなくて」 面接と実技試験の審査官だった上田(うえだ)だ。 今いるメンバーの中で唯一、一番見知った顔を見た舞は、少しだけほっとした。 「上田さん、おはようございます! 今日からよろしくお願いします!」 上田にも元気良く頭を下げる。 「えぇ。こちらこそ、よろしくね」 にっこりと優しく笑う上田に、 「上田さん……若い子入れるなら、男にしてって言ったよね」 露骨に嫌そうな顔をした友季が言い放った。 「なっ……!」 その言い草に、舞は思わずムッとする。 女性パティシエというのは、今の時代では珍しくはなくなってきているが、実際の現場では男女差別がまだ根深く残っているのも事実で。 舞が尊敬していたこのパティシエも、そういう古い考えのタイプなのかと、心底がっかりした。
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!