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舞は、勇気を振り絞って厨房の中に一歩踏み入った。
「お、おはようございます!」
「……んあ? 誰だ、お前」
裏口に一番近い場所に立っていた友季が気付き、舞を睨みつける。
(……テレビと表情が違う! 感じ悪い!!)
舞はそう思ったが、
「本日からこちらでお世話になります鈴原 舞です! よろしくお願いします!」
顔には出さずに元気良く頭を下げた。
その声に気が付いた女性スタッフの1人が、慌ててこちらにやってくる。
「鈴原さん! ごめんね、気付かなくて」
面接と実技試験の審査官だった上田だ。
今いるメンバーの中で唯一、一番見知った顔を見た舞は、少しだけほっとした。
「上田さん、おはようございます! 今日からよろしくお願いします!」
上田にも元気良く頭を下げる。
「えぇ。こちらこそ、よろしくね」
にっこりと優しく笑う上田に、
「上田さん……若い子入れるなら、男にしてって言ったよね」
露骨に嫌そうな顔をした友季が言い放った。
「なっ……!」
その言い草に、舞は思わずムッとする。
女性パティシエというのは、今の時代では珍しくはなくなってきているが、実際の現場では男女差別がまだ根深く残っているのも事実で。
舞が尊敬していたこのパティシエも、そういう古い考えのタイプなのかと、心底がっかりした。
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