求婚は唐突に

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 その言葉を口にした瞬間、形の良い唇が不穏な感じで引き上げられました。  にぃっこり、それはもうにぃっこり美貌の青年が微笑んでいるのですが、その瞳はちっとも笑っておらず、ひやりと背中に汗が流れます。 「あ、あの」 「あなたが欲しい」  わずかに眉尻を下げ憂いを帯びた表情で、握られていた手を今度は両手で包まれます。  少し下げられた瞼から髪と同じく銀の睫毛が影を作り、懇願を含む眼差しで見つめられました。  拗ねたような表情とも取れるそれは、いつもより幼いとまではいかないけれど年相応の青年のようで、妙に心がそわそわします。  落ちつきません。一言セリフを話せば、もう私は関係なかったのじゃないのでしょうか?  仕方がないので、もう一度オズワルド様に同じことを告げます。 「……その、私の家は田舎にあって大きな功績を持っているというわけもなく、知っての通り婚姻を結んでも何も利点はありません。そう、そうです、オズワルド様には素敵な家柄の婚約者様がおられるのでは?」  周囲の目を気にしつつ、前回の話で納得いただけていないのならと渾身の言い訳を思いついきました。  実際のところディストラーさんとはどのような状態だとか知りませんし、ここが無難な落としどころだと思ったのです。  しかし、続くオズワルド様の言葉は信じられないものでした。 「ええ。あなたという婚約者がおりますね」 「…………えっ?」  衝撃的な台詞に目を見張ると、オズワルド様は神妙に頷きました。
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