ペンペンが語る 慰安婦物語 署名偽造事件編

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ペンペンが語る 慰安婦物語 署名偽造事件編 詩織さん事件で明らかになった低レベルを証明する事件が続いた。署名偽造事件だ。 (前略) 夕刊フジは、芸術祭開幕直後の8月2日、企画展「表現の不自由展・その後」を記者が取材した。撮影は認められなかったが、その映像作品の印象は取材ノートと脳裏に焼き付いている。  約20分の映像で強烈なのは、昭和天皇の肖像をバーナーで焼き、顔の部分が最後に燃え尽きる一連のシーンだ。残った灰は地面にこすり付けるように足で踏み付けられた。鮮血を想起させる赤い液体がしたたるなか、下駄を履いた女性の白い足を重ねるインパクトの強い場面もあった。女性の叫ぶような歌声のBGMも流れていた。  企画展には、昭和天皇の映像作品のほか、慰安婦像とされる少女像や、英霊を冒涜(ぼうとく)するように感じる作品もあり、電話やメールなどで抗議が相次ぎ、8月3日をもっていったん公開中止となった。芸術祭の実行委員会会長を務める大村氏は10月8日に再公開に踏み切った。 (中略) 明治天皇の玄孫(やしゃご)である作家の竹田恒泰氏が11日、自身のツイッターで、大村氏に対し、《昭和天皇は私の親戚である。その昭和天皇を侮蔑し、名誉を毀損(きそん)する展示に対して、私は深く傷ついた。皇族方の多くも同じように傷ついたに違いない》《即位の礼には出席しないでいただきたい。わが国の象徴にヘイトを浴びせる貴殿には、皇居の濠を渡る資格は無い》と発信 (2019年10月15日、夕刊フジ)  2010年から3年ごとに愛知県で開催されているあいちトリエンナーレ国際芸術祭。2019年の開催では、大村愛知県知事が当時朝日新聞論壇委員だった津田大介を芸術監督に指名。津田は「表現の不自由展・その後」の企画を決め、「男女平等」をテーマに70組を超える国内外の作家を選考した。「表現の不自由展」は、ニコン社が運営するニコンギャラリーの新宿ニコンサロンが慰安婦の写真展を中止にした事件がきっかけで開催された企画展。2019年の芸術祭のテーマとして、慰安婦問題、天皇と戦争、憲法9条などがピックアップされたが、津田による強権的な選考もあって、慰安婦問題に関連する展示が多くなる結果となり、その理由が「安倍政権が慰安婦の被害を目につかないようにしたからこそ、そうなっただけ」と説明された。 「津田大介が芸術監督に指名されたのは、バランス感覚がよくて、いろいろなアイデアや意見を取り込んでイベントを創り上げることができるという理由だったみたいだね」 と、僕がウィキペディアの記載を読みながら言うと、ペンペンが切り込んでくる。 「バランス感覚が悪いから、一方的な趣旨のイベントになり、保守派と言われる人たちの反発を招いたんだよ」 「そうか。だから開催3日目で中止になったんだね。慰安婦像や天皇の御真影を焼く映像の展示なんてとんでもない、公金をそんなことに使うな、という論調が多いみたいだど、その論調にはあまり賛同できないなあ」 「いいバランス感覚になってきたね。公金を使ったというけど、そもそも慰安婦問題をはじめとする多くの人権問題を生み出したもと、つまり天皇制を利用して海外に進出しようとした一部日本支配層自体が、ずっと以前から、全体主義のためにめちゃくちゃ公金を使ってきたんだよ」 「なるほど。でも大村知事は、『あいちトリエンナーレのあり方検証委員会』を開催すると発表しただけで、津田大介芸術監督の任命責任を取ってないし、無責任とか責任転嫁などと批判されていたよ」 「無責任や責任転嫁なら、当時の総理大臣が飛び抜けているよ」  まったくその通りだ。僕がこの事件を詳細に追ってみたいと言うと、ペンペンは体操の内村選手を彷彿とさせるいつもながらの華麗な腕の舞でベッドと冷蔵庫の間の空間にホログラムを出現させ、あいちトリエンナーレ国際芸術祭中止後の解説映像を映し始めた。  2019年10月22日の「即位礼正殿の儀」には大村知事も参列し、ここでも「昭和天皇への無礼を許したことへの説明責任が果たされていない」などとネットで炎上して、大村知事リコール(首長の解職請求)を求める意見も出始める。地方自治法第84条では「首長の選挙から1年間は解職請求できない」と規定されているため、リコールが可能となるのは2020年2月以降だった。  2020年6月2日、美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長は、作家の百田尚樹や竹田恒泰、元中部大教授の武田邦彦、ジャーナリストの有本香という錚々たる保守派論客たちを名古屋市内のホテルに招き、「愛知の未来をつくる会」という政治団体の設立を発表した。この会見で司会を務めたのが後に逮捕される田中孝博だった。高須が声高らかにファンファーレを打ち上げる。 「あいちトリエンナーレ2019で昭和天皇の版画を燃やす場面などが展示されましたよね。こういう展示が行われること自体が税金詐取です。しかも大村知事は謝らない。ですので私は、大村知事リコールの活動を開始し、有権者の3分の1(約86万人)を超える100万人の署名を目指します」 6月28日には、河村たかし名古屋市長も参加する中、名古屋市の大須商店街で、請求に必要な署名集めを担う「受任者」を募るはがきを配った。日本は主権在民の国、リコールの権利があるのです、これから県内の全世帯にはがきを配る予定です、と記者団にまくしたてる。こうして募集されたボランティアメンバーには一枚の文書が手渡された。 愛知県知事リコールボランティア活動承諾書 第1条 (秘密保持の誓約)  私は、貴団体の規則等を遵守し、誠実にボランティア活動を遂行することに誓約するとともに、以下に示される貴団体の業務内容、活動上の情報(以下「秘密情報」という。)について、貴団体の許可なく、如何なる方法をもってしても、開示、譲渡もしくは第三者に口外、使用しないことを約束致します。 ① 業務で取扱う個人情報 ② 業務上知り得た事務内容や業務に関する情報 ③ 財務、人事、組織等に関する情報 ④ 当会の会員、受任者であること 第2条(秘密の報告および帰属)   私は、秘密情報は貴団体の業務上作成または入手したものであることを確認し、当該秘密の帰属が貴団体にあることを確認致します。また当該秘密情報について、私に帰属する一切の権利を貴団体に譲渡し、その権利が私に帰属する旨の主張を致しません。 第3条 (秘密情報の複製の禁止)  秘密情報が記載・記録されている媒体については、職務執行以外の目的で複製・謄写しなおこと(原文のまま)、及び職務執行以外の目的で貴団体の施設外に持ち出しをしないことを約束いたします。 第4条 (退職後の秘密保持)  秘密情報については、貴団体を退職した後においても、開示、漏洩もしくは使用しないことを約束致します。また秘密情報が記載・記録されている媒体の複製物および関係資料等がある場合には、退職時にこれを貴団体にすべて返還もしくは廃棄し、自ら保有致しません。 第5条   前各条に違反して、貴団体の秘密情報を開示、漏洩もしくは使用した場合、法的な責任を負担するものであることを認識し、これにより貴団体が被った一切の損害(訴訟関連費用を含む)について、その全額を賠償します。 令和2年  月  日 住所             氏名           印 連絡先   -   -    (ご紹介者        )  2020年8月25日、高須は、市内での記者会見で「県民の税金を県民が喜ばないことに使っている。民主主義の根幹を揺るがす問題だ」と吠えまくり、代表を務める署名活動団体「愛知100万人リコールの会」が大村知事リコールに向けた署名活動を開始した。 「民主主義の根幹を揺るがす問題だって? 民主主義など喜ばないような戦争推進派が何を言ってるんだ!」 と、僕がまたしても公安ににらまれるようなことを言うと、ペンペンが笑う。 「クワクワ。落ち着いて」 団体の事務局長には田中孝博が就く。同じく後に逮捕される山田豪(たけし)元常滑(とこなめ)市議は、後の2021年5月21日に東海テレビでこう述懐している。 「(田中容疑者は)親分肌で面倒見はいいし、リコールの話をもらったときは、河村市長と高須院長の右腕になっとるから信じるでしょ、信じますよね。そこからどっぷり。田中ワールドってあるんですよね。田中ワールドに入り込んじゃうと、すごいパワーですよ。リコール期間中は自分は(田中容疑者の)ガードマン役で、『田中事務局長を守らないかん』」  実際に署名を集める受任者の数がリコールの成功・不成功を大きく左右する。威勢良く開始した署名活動だったが、受任者の数は少なかった。しかし田中は、受任者は7万人いると高須に報告し、活動を続ける。1か月後の9月下旬。当然、それまでに集められた署名は目標数をはるかに下回っていた。そのため高須と田中は9月29日に東京に向かう。東京の議員会館を訪れ、日本維新の会の鈴木宗男参院議員に署名集めの期限延長を支援してもらうためだった。宗男議員はその場で総務省の担当者に電話したが、断られた。この日の上京にはネット番組『真相深入り!虎ノ門ニュース』(DHCテレビ)でのスタジオ出演もあった。百田尚樹や門田隆将からエネルギーをもらい、SNSで署名集めは順調だと嘘を撒き散らしていく。事務局の幹部を務めていた山田が憂慮を示しても、田中は「ある団体が水増し署名を作ってくれる」と強気だった。  10月中旬、名古屋市の広告関連会社の幹部に「愛知100万人リコールの会」から依頼が入った。名簿を代筆するための人を集めてほしいという。高須が署名活動開始を表明したとき、協力するといってリコールを呼びかけるはがきの配布も請け負っていたから、同社への依頼は当然の成り行きでもあった。具体的には、10月19日、名古屋市の広告関連会社にアルバイトによる簡単な名簿書き写し作業が田中から依頼される。4日間の予定で実行予定の作業に対し、総費用として約470万円が記載された発注書が発行され、そのうち、アルバイト4日分の給与に相当する350万円を田中が小切手で支払った。作業はその後2回延長され、合計700万円は現金で支払われた。高須も街頭でこの悪事を実質的に公言する。 「これからの1週間でさらに積み上げる計画です」    広告関連会社からの発注を受けた人材紹介会社が即座にアルバイト募集をかける。なぜか作業場所が佐賀県で、福岡県と佐賀県からアルバイトが来ることになった。 「簡単♪ 名簿を書き写すだけ!!」 「交通費1000円支給★ 未経験者大歓迎!佐賀市で名簿の書き換え作業!!」 10月下旬、佐賀県青年会館の会議室に時給900~950円、午前10時から午後9時までのシフトで100人前後のアルバイトが集められた。6~7人いるスタッフの中の一人が説明する。 「労働条件通知書に記載されております通り、もくもくと作業をするのが得意な方にお勧めです。データをお渡しするので、それを元に修正を行っていただく業務です。どういうことかと申しますと、皆様のテーブルに名簿の束がございます。その右横にあるのは転記用の名簿です。つまり、右利きの方ですと、左側の名簿を見ながら、右側の名簿に書き写していただきたいということです」  アルバイト作業員たちは、まず守秘義務の誓約書に署名させられた。続いて言われた通りの作業を始める。転記用の名簿には、10人分の記入欄があった。横長で印刷されており、左側下段に3名分、右側全体に7名分の記入欄があった。左側上段には高須が右指で指さしながら何か訴えているイラスト、そして高須の横には応援者として河村名古屋市長のイラスト。そのイラストの上にリコール署名のスローガンのような記載があった。  大村知事のリコールを私たちは求めます。  昨年8月に公金で開催された「あいちトリエンナーレ2019」で、昭和天皇の写真を燃やしたり、日本兵を侮辱する作品の展示を認めた大村知事のリコールを私たちは求めます。 「100万人分くらい集めなければいけないので急いでほしい」 と現状をゲロしたうえで、作業中にいろいろと説明や指示を出した。 「1枚には7~8人分だけ書き写してください」 と、10人埋まっているため怪しいと思われることを避ける指示。署名用紙には偽造を禁じる注意書きが記載されているにもかかわらず、 「この書き写しはですね。反日的な知事を辞めさせるための運動の一環ですので、正義に基づくものです」 と、正当化する。 「勝手に署名していいんですか?」 と、アルバイト作業員から疑問が出ると、 「リストにある方々の代わりに、許可を得て代筆しています」 と、すかさず対応する。アルバイト作業員たちは、パソコン入力されたものをなぜ自分たちが書き写すのか、全部同じ字になってしまうのに大丈夫なのか、などの疑問、不信感を抱きながらも、簡単な作業による自己の収入のため黙々と業務に励んだ。  当然、番地違いの同じ町内の住民の署名が立て続けに7~8人分同じ筆跡で書かれた署名簿がいくつも作成される。従って、佐賀県で作成された書き写し署名簿が愛知県に運ばれ自治体別に仕分けするときに、それらの点が確認された。11月4日の署名提出期限直前までの数日間、名古屋市内の公共施設に田中の近親者や高須の女性秘書を含む10人前後が集まり、そういったあまりにも怪しい名簿を除外する。使えると判断された名簿は、㊞の欄に指印を押していく。10本の指全部を赤くして押印する。偽造署名簿は、提出期限直前に一気に増えると、他の事務局スタッフに怪しまれるため、田中は、事務局事務所に運ばれた署名簿の一部を自宅に移動した。  11月4日、選管に43万5000人分の名簿が提出されたが、ナンバリングされていないということで受理されないというアクシデントが起きた。田中は急遽ボランティアを集めてナンバリング作業を行う。このときのボランティア作業員で受任者にもなっていた水野昇氏(68)が、偽造されていると明らかにわかる名簿を発見した。水野氏はそれを抜き取り、SNSで公表する。  11月7日、高須は活動を続け、署名を上積みさせることは可能だったにもかかわらず、自身の健康問題を理由にリコール運動の終結を宣言した。そして、水野氏を窃盗で告訴した。 12月4日には、ボランティア数人が愛知県庁で会見を開き、「不正な署名を多数発見した。筆跡が全部同じになっている。誰かが住民データを用意してそれを丸写しし、同一人物が複数の署名を書いて偽造した疑いがある」と発表した。  一方高須は、この一連の告発に対し、ツイッターで、「こいつは署名簿を抜き取った犯人で、罪を軽くするために悪あがきしていると思う、命懸けで有志の人たちと集めた署名簿を勝手に抜気取った犯罪者を僕は許せない」と、自らの不備を調査するのではなく、偽善者気取りとも思えるような言葉で応酬した。地方テレビ局が署名簿に書かれた住所を実際に訪れて、「書いていない」という証言を報じても、本人の住所に押し掛けて署名したか否か確認をメディアが勝手にやるのは罪ではないのかなどとメディアまで避難した。あげくのはてに「僕は不正が大嫌いです、再リコール運動の芽を摘む行動だと推察します」と、陰謀論まで言い始めた。  12月22日、愛知県選挙管理委員会は全署名を調査する決定を下す。  12月22日には中日新聞が、神谷和利愛知県議、杉江繁樹愛知県議、小林晃三碧南市議、新美交陽碧南市議、磯貝忠通碧南市議といった現職の公職者が無断で名前を書かれたと同紙に証言したことを報道した。  それでも高須は年明け直後、「リコールが成立しなかった場合は署名は返還されます、選挙管理委員会には署名鑑定の能力はありません」と言って、証拠隠滅とも解釈されかねない署名簿の返還を選管に繰り返し要求した。後の2021年6月23日時点では、選管が第三者委員会を設置し、署名簿を保全して調査を進めるとしている。  2021年2月1日、選管が「提出された署名約43万5000のうち、無効な署名は約36万2000で83%、そのうち、同一人物による署名は約90%」という唖然とする調査結果を公表した。取材された高須が言い張る。 「『不正が嫌いだからリコールをやる』わけだから、僕が不正をやるわけがない。少ない署名に、なおかつけちを付けて二度とリコールしないようにするための陰謀だと自分は感じています。あらゆる罪は僕が引き受けます。死刑にされようが懲役になろうが僕は平気です」  河村名古屋市長も憤る。 「とんでもねー話で、どえりゃー怒ってます。署名運動そのものの存在価値がなくなりますよ!こんなことやっていたら」 「ありゃりゃ。陰謀論が出てきてるよ。漫画みたいだね」 と、驚く僕。 「普通、こうした不正は、周到に準備し関連組織に根回して実行するけど、既に転居している人や故人の署名がたくさん見つかっていて、不正レベルも低いから、嵌められた可能性も考えられるけどね。この重大な発表の直後、どういうわけか全国紙の報道がほとんどなかったんだよ。でも、西日本新聞の『#あなたの匿名取材班』へ寄せられた情報をきっかけにして、他社である中日新聞と連携して報道し始めたから、画期的なことだったんだよ」 とペンペンが解説。 「へえ、それはなんだか希望を感じさせるね」  2月15日、選管が地方自治法違反容疑の告発状を県警に提出し、受理され、県警が捜査を開始する。  2月16日、田中が佐賀での一部の署名簿作成を認めたが、事務局がアルバイト募集に関与したことは否定した。  2月17日、東海テレビが名簿の束から書き写すアルバイトをしたという男性の証言を報道した。名古屋テレビも名古屋市の刑事告発を報道し、「リコール運動は非常に大事で、その権利をまもらないかん。11万人、83%の署名が無効はどえらいこと」という河村名古屋市長のコメントを伝えた。  2月18日付けの朝日新聞では、名古屋市の広告関連会社幹部が、リコール運動事務局の幹部からの発注や書き写し作業という趣旨の依頼について報道されたが、事務局幹部は取材に対し、「事実無根」と否定した。  2月20日には、FNNが福岡・久留米市に住む契約社員の男性アルバイトの「いきなり変ですよ。いきなり高須さんと河村市長の顔写真が横に付いていて…、折り畳み式の机がダーっと並んでいてそこで黙々と…」という証言を報道し、愛知県民の名前や住所の生々しい書き写し作業が暴露された。  2月22日には、西日本新聞が新たな証言を報道し、アルバイトに対しての代筆正当化の説明を含め、採用から作業の詳細までが明らかにされた。また「会場がなぜ佐賀市だったのかなどの疑問は残ったまま」とした。  2月24日、ついに署名簿が提出された県内の複数の自治体の選挙管理委員会に容疑者不詳で愛知県警が強制捜査に入った。またこの日にはNHK NEWS  WEBで、大学・専門学校講師山上博信氏が個人情報の開示を選管に請求して入手したコピーが掲載された。印刷され住所の文字、そのあとの手書きの町名や番地、名前の横にある「ぼ印」がそれまでに行われた数々の証言を証明していた。  3月1日、愛知県警が、リコール活動団体の事務局幹部を任意で事情聴取した。事情聴取とは取り調べのことで、拒否することもできる。が、任意取り調べに応じないと、逃亡の恐れや証拠隠滅を疑われることもある。  3月3日、名古屋市の広告関連会社の社長が「運動事務局の幹部が、10月19日にスタッフ代行という名目のバイト募集業務に関する発注書にサインし、印鑑も押した」と周囲に話していると共同通信などに報道される。田中は依然、関与を否定していた。  3月9日、ビジネスマン向けのSmart FLASHに、リコール活動の受任者を務め、署名偽造の第一発見者でもあった水野昇氏の証言が掲載される。署名者数や受任者数の数字のねつ造、11月4日の署名簿偽造作業などを暴露した上で、田中が大村知事派であり、大村陣営に戻る手土産としてリコール失敗作戦を練ったのかもしれないという推測を述べていた。 3月18日にはNHK NEWS  WEBで、「100万人分くらい集めなければいけないので急いでほしい。スタッフから携帯電話の持ち込みは禁止だと言われた。個人情報は外に漏らさないという同意書にサインもした」というアルバイト作業員の証言が掲載された。  3月24日、愛知県警がリコール活動団体事務所を捜索した。田中は「捜査には協力したいと思う。団体としても私自身も署名の偽造には一切関与していない」、高須も「実行しているのは誰だかわかりません。ただ僕は絶対に指示していません。僕が全責任者なので県警から要請があったら全面的に協力します」とコメントする。  4月16日、山田豪元常滑市議が偽造署名に深く関与したと認めたという取材内容を東京新聞が報道した。18日にも田中が「ある団体が水増し署名を作ってくれる」と発言していたと同紙で証言。  この時期に名古屋市長選が始まり、危ぶまれていた再選を実現し、名古屋市民の程度が知れた。しかし、リコール陣営は仲間割れを起こしており、「まあ良かったです、とは思うが、義理で市長選が終わるまで我慢していた。リコールをしようと言い出したのは河村さんなのに、私が言い出したとうそをついたことは許せない。いざという時に逃げる人とは今日をもって友達をやめて、絶交します」という高須のコメントが各メディアに掲載された。  5月3日、アルバイトによる署名書き写し作業を自ら依頼した、予定通り署名が集まっておらず焦っていた、高須克弥院長がSNSなどで署名集めの順調さを発信していたため恥をかかせるわけにはいかなかった、などの田中に対する取材内容を東京新聞が報道した。  5月19日、県警が田中の逮捕に踏み切る。  5月20日には、秘書が指印による署名偽造に関わっていたことに関するメディアの取材に対し、高須は「全く知らなかった、4月になって報告を受けた」と回答した。ボランティアが県庁で会見を開いて不正が明らかになったのが前年の12月4日だったから、「僕は不正が大嫌いです」と言いながら、その間大した内部調査を行わなかったことになる。この秘書に関し、高須は「鈴木美由紀は僕の秘書です。代表請求者です。 自由に動けない僕に代わって情報収集をさせています。正当な業務です。 何か?」と前年12月9日にツイートしていた。またこの日には、県警による名古屋市の広告関連会社の家宅捜査も行われている。  5月21日には、田中が「佐賀でのことは高須さんも知っている」と周囲に話していたと毎日新聞が報道する。高須は田中の発言に対し、「全くのうそ」とすかさず否定した。またこの日には、「愛知の未来をつくる会」設立発表時に招かれた作家の百田尚樹は、「アホか! わしに何の責任があるんや! 高須院長から、記者会見をやるから来てもらえないかと、前日に電話を貰ったので行っただけやないか! リコール運動にエールを送ったが、活動には一切無関係や。不正のことなんか何も知らんわ!」とツイートしていた。  5月24日には、高須の名古屋市内の関係会社が家宅捜索され、署名簿に指印を押したとされる高須の女性秘書の任意の取り調べも行われた。  6月9日には、佐賀でのアルバイト動員や押印による署名偽造に関わった田中、田中の妻と次男、事務局幹部女性の4人が再逮捕された。次男は「おやじに言われて手伝った。『仮提出だから大丈夫』と言われ、問題ないと思っていた」と供述していた。 「へえー。急展開する事件のいきさつがとても興味深いね。何年にもわたる事件じゃ、ここまでの急展開が実感できないよ」 「何年もかかっていろいろな調査・研究結果が公表された後にやっと逮捕が行われた刑事事件とかに比べたら、確かに迅速に展開したね」 「それにしても、詩織さん事件の山口の記事と同様に、慰安婦問題追及派を攻撃する陣営のお粗末さが改めて浮き彫りになったよ」 「君もわかっているだろうけど、慰安婦問題否定派のすべてがお粗末さというわけではなく、海外を含めた慰安婦問題追及派にも情けない点がいっぱいあるからね」  まったくその通りだ。集団になると、組織維持、保身、メンツといった利権要因が発生し、どうしても純粋な問題追及路線から逸脱しがちだ。その最たるものが、野党の分裂だろう。逆に自民党は、利権というただ一つのもので簡単かつ強固に団結できる。やはり、問題の改善・解決には、核となるぶれない考え方が非常に重要だ。そう考えると、コロナや森友問題を調べたときに至った「優生思想こそ諸悪の根源」という考え方、姿勢は、今の自分にとっては、憲法9条のように、絶対変えてはいけないもののように思える。男の女に対する優生思想があるからこそ、女性を物のように扱うことができる。だから慰安婦問題も発生した。日本人の中国・朝鮮人に対する優生思想があるからこそ、中国・朝鮮人を物のように扱うことができる。だから731部隊問題や徴用工問題も発生した。学校という身近な環境でも、親の職業や裕福・貧乏などに始まる差別側の被差別側に対する優生思想があるからこそ、いじめが発生する。 「優生思想やその言葉自体が君たちの言う動物、植物、鉱物の世界には存在しないんだよ」 と、ペンペンがぐさりと言う。
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