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夜叉
『夜叉、見たり。……その、正体は』
瞳は爛々と輝き、眉は吊り上がり、唇はかたく結ばれ、狂気を孕んだ怒りの形相で、あの女は俺を見た。
あの女を責めたりしないよ。
あの女は可哀想な女だもんな。
あの日の話をしよう。
まずは、そうだな、あの女……俺の母の、7回目の再婚の時の話でもしようか。
その日、高校に通っていた俺は、学校帰りに母と落ち合って、いわゆる高級レストランに向かった。
そこに再婚相手がいるからと。
俺と引き合わせようとしたんだな。
前の旦那とは別れたばかりだった。一年と続かずに、夫を変える母に、俺はいい加減嫌気がさしていた。大体息子が十八になるまで、七回も再婚する母親なんてどうかしてる。
母は、金さえ持っていれば誰でもいいのだ。
俺も貧乏はまっぴらだったから、軽蔑しつつも、母に従っていた。
今度の旦那はIT企業の社長。かなり大手の会社だったから、金は相当持っていたろう。
レストランに着くとまずは顔を合わせる。
軽く会釈して握手をした。
顔も悪くない。体系もやせ型だ。
今回は母親も本気なのか、必死で男に媚びを売っていた。
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