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母親はかなりの美貌の持ち主だった。
まだ四十。
白い肌と潤んだ大きな瞳とぼってりと艶っぽい唇を持っていた。
若い頃はかなりモテただろう。
母親にも自信はあったはずだ。
自分は美しい。綺麗である、と。
けれど、悲しいかな、その母の産んだ息子は、さらに上の美貌を持っていた。
つまり俺だ。
俺は、自分で言うのもなんだが、いわゆる妖艶な美青年だった。
『ベニスに死す』に出てくる美青年タージオのような。
ああ、オマエには『ベニスに死す』なんて古い映画の話をしてもわからないな。
とにかく昔そういう映画があって、そこに、びっくりするほどの美青年が出てきたってわけ。
その容姿と、俺の容姿は酷く似ていた。
だから母は、俺と一緒に歩く時だけ猫背になった。
比較されるのが嫌だったのだろう。顔を伏せ、青くなって、びくびくしてた。
元々が美人なだけに哀れな話だった。
新しい旦那は飯島と言った。
俺を見るなり、たじろいだように一瞬身を引いて、それからは食事中もずっと俺を見ていた。
それには母も気づいたのだろう。
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