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『弓さん、これは……私は春樹君が好きなんだ。どうか、許してくれ』
飯島がいい訳のようにしどろもどろで母に訴えた。
『別れるなんて言わないでくれ。春樹君とは離れられない。金ならいくらでも好きにしていい。なんなら君も男を作ってもいい。だから……』
『貴方もその子がいいのね』
母が何も籠らぬ声音で言った。
『七回再婚して、その全員がその子を選んだ。あたしではなくその子を。』
カッ、瞳が見開かれた。
『どうして!?女のあたしより男のそいつの方がいいっていうの!?今まで知らないフリしてあげたのに、夫婦の寝室でこんなこと!!毎晩貴方たちがしてること、知らないとでも思ってるの!?』
天気が、母に味方するように、どおおおん、雷鳴を轟かせた。
ピカ、と光った瞬間、夜叉の顔がそこにはあった。
瞳は爛々と輝き、眉は吊り上がり、唇はかたく結ばれ、狂気を孕んだ怒りの形相。
まさしく夜叉だった。
流石の俺も凍り付いた。
女は俺の首にすごい力で手を添えて、ぎゅう、と、締め上げた。
「疫病神!!オマエさえいなければ、オマエさえいなければ。死んでしまえ!」
ピカリ、ゴロゴロ。
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