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夢は何?
ウルヴァン
「娘を取り上げてくれたんだ。あいつ、若い頃はグルージヤ神教国のヴォレイオス山修験道で、上級魔導と医術を修めた秀才だよ」
ファイアが、そんな秀才だなんてギュッタは気づかなかった。
ウルヴァン
「ファイアは今でも、俺の嫁を救えなかったことを悔いているんだ。『娘の恩人で感謝している』と、何度言っても奴の心に届かないんだ」
ギュッタは、ウルヴァンがファイアの飲んだくれを許した理由が少し理解できた。
ウルヴァン
「そろそろ俺たちも仕事だな!」
忙しい時間は過ぎ、ウルヴァンとギュッタは店の後片付けをしている。
ギュッタはウルヴァンに尋ねた。
「ウルヴァンさん、俺の夢は魔道士の頂点『聖魔道士』になること。尊敬されて、大金持ちになって、女にもてて、村の連中を、見返してやります!」
ウルヴァンは少し困り顔で、
「あ…そうなの」
ギュッタ
「ファイアさんの夢はプリエトの街の人に夢を語ってもらうことだって言うけど…あの人自身夢はあるのでしょうか?」
ウルヴァン
「俺にも分からないよ。あいつ、謙虚を通り越して自分を全否定しているんだ」
ギュッタはファイアの話を聞くたびに、悲しくなる。
「ウルヴァンさんの夢は何ですか?」
「俺の娘が嫁の分まで幸せになることだぜ!!」
と、凄い大声で吠えた。
狼亭食堂の仕事が終わると、バルバロッサ爺が宿屋の夜間受付を担当してくれるのだが。
今日は、ファイアの相棒の赤い小さな飛竜が窓の隙間から入って来た。
赤い飛竜
「ギャッ! ギャーーァ!」
ウルヴァン
「ハナどうした!? バル爺が青空教室の教材を持って帰ろうとしてギックリ腰!? 大変じゃねえか!!」
ウルヴァンは、この飛竜ハナの言うことが分かるようだ。
ウルヴァンの大声通訳によると…。
ファイアがバル爺を治療し、バル爺を連れて帰ってくれた様だ。
バル爺は、ファイアに店番を代わってくれとファイアに頼んだが、ファイアは仕事があるのでハナが来たと言っている様だ。
ウルヴァンは、気持ちは分かるが無茶だとハナに言おうとした瞬間、ド派手な衣装のファイアが、息を切らせて店に飛び込んで来た。
「ハナ! そりゃ無茶だぜ~! どうせ大した稼ぎないから俺がやるからよ~」
ウルヴァン
「お前!! その格好で店番は悪夢だぜ!」
ファイアは自分の服装を見直した。
ウルヴァン
「『己の仕事』を全うしろ。今日はハナと俺が店番やるぜ!」
こうして、バル爺のクエスト『青空教室の準備&後片付け』が蜜蝋パブから出された。
受注者はギュッタとファイアである。
ギュッタは様々な小クエストを引き受け、小金を貯め、夢幻堂で魔導辞典を格安で購入した。
不明な所は、ランチタイムにファイアが教えてくれる。
ギュッタは魔導教本を借り、写本するため蜜蝋ギルドに通ったが、黒装束の男はあれ以来見かけない。
最近は呪文を読むと空気が揺れ、魔導が発動しそうで焦る事もある。
プリエト城下町内では魔導教室や軍の施設以外は、魔導使用厳禁だ。
ファイア・レッドも、桃源郷の呼び込みが、この界隈に馴染み、桃源郷内の店の宣伝などを積極的にやっている。
今では店の余興や結婚式に呼ばれ、パフォーマンスをすることが増えた。
遊び好きが功を奏して街の振興対策を頼まれ、ファイアの提案が成果を上げている。
客が入り易くなる簡単なレイアウト替えに、酒の肴の新メニュー開発。
夜のお姉様方に男が喜ぶお化粧の指導(やたら上手い!)。
ファイアは、難しい文字が読めることが段々と周りに知られるようになり、貧しい住民が厄介ごとに巻き込まれると、役所や地主との交渉も無償で引き受けた。
2人の生活は少しずつ充実するように見えた。
ギュッタはいつもの様に朝の仕事を終え、桃源郷の掃除に向かった。
青空教室の手伝いクエストを受注しているので、バル爺の教材も運んでいる。
いつもの様にファイアが煙草を咥えて待っている。
「よう! ギュッタ。お前、聖魔道士になって女にもてたいんだって?」
ギュッタ
「え! 何で知っているの? …ウルヴァンさんから聞いたね」
ファイアは1冊の本を手渡しながら話しかけた。
「それ、あまり他の連中に言わない方がいいぜ~。まあ、これ読みな~ヒヒヒ…」
ギュッタ
「ファイアさん何? 嫌な笑い方フフフ。 題名が嫌らしいよ?」
ギュッタはパラパラとページをめくって少しだけ読んでみた。
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