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「聖魔道士」
マスターは、聖魔道士が何故危険なのか理由を説明した。
300年前は、大陸の支配者だったグルージヤ神教国には、巨大な魔力を持つ魔導師が12人いた。
魔導師たちは、プエリトの南にあるヘパイトス火山の噴火を魔導奇跡で抑えていた。
グルージャ神教国はヘパイトス山の恵み、質の良い青色の鉄鉱石や貴金属を、採掘し富を得、今より高い文明社会を築いた。
しかし、噴火を長年抑え続けた結果、へパイトス山に大量に溜まったマグマが魔導の奇跡では抑えきれず、大爆発を起こし麓の大神殿も街も廃墟となった。
「魔導はね、強くなりすぎるとこの世を滅ぼすこともできるんだよ」
マスターは続けた。
グルージヤ神教国は、ヴォレイオス山に大神殿を移転した。
南部から勃興したメリディエス家一族が、首都クラノスに侵攻しクラノス王国を構えた。
グルージヤ神教国はヴォレイオス山付近のみとなった。
クラノス王国は、神(自然)の力に逆らわず生きることをグルージヤに要求した。
この世を遍く治めるクラノス神を唯一神とし、使徒神を聖人・聖獣とする。
大神殿を大聖堂と改める。
魔導師は、神の力をも変える危険な存在。
グルージヤ神教の面目が保てる様に3名だけ残した。
力を世襲させぬため、神と契りを交わす聖職者とし”聖魔道士”とする。
ギュッタ
(そんなに危険なものに、俺は憧れていたのか)
自分は豊かで平和な日々を送りたい、できれば人の役に立ち尊敬されたくて聖魔道士になりたかったのに。
マスター
「みんなに喜ばれる魔導か~。いいなぁ…夢だね、ギュッタが自分で生み出してみたらどうだい?」
ギュッタ
「え!?」
マスター
「俺、人間に転生する前は悪の権化だったからね。ザイオンで本当に魔王やっていたんだ、巨人を1万体ほど引き連れて。でも、飽きちゃった」
ギュッタ
(え! ザイオンで巨人って。それ、伝説の悪鬼『北の巨人賊』の頭領ってこと?)
マスター
「人や魔獣の魂吸い上げて2000年生き続けても、虚しくない? 恋人いない、家族いない、友達いない、夢もない…もう耐えられなくて」
ギュッタ
「マスターはどうやって人間に転生したんですか?」
マスター
「20年くらい前に、死にかけの男を助けたんだよ」
マスターはある日、伏魔殿を抜け出し人間に化け、街のパブで晩酌をしていた。
誰かに酌をされる訳でなく、小銭を渡すと店主が酒を出す。
実に気楽で、飲んだ酒も上等ではなかったが美味しかった。
が…
外から人間の血の匂いがした。
マスターは店を出て血の匂いがする路地に入ると、1人の男が数人の男に襲われている。
「『きゃ~!人殺しぃ~!!』て、叫んで生まれて初めて人助けをしたんだよ」
予想外の平和的手段だ。
マスターは、その男を近くの廃屋に運び傷を治そうとした。
「その男、俺の治療を断って『俺はろくでなしだ、このまま死にたい』て、言うんだ」
マスターは、実は自分が魔王で人間が羨ましい、折角人間に生まれたのに勿体ないと伝えた。
「男は『もう俺は人生をやり直せない。助けてくれたお礼に、お前が欲しければ俺の身体をやる。俺の分まで真面目に生きてくれ』て、言ってくれてね。お言葉に甘えたんだよ」
マスター
「人を助けると必ず良いことがある。俺、そう信じているよ。ギュッタのやりたいことが魔法で人を喜ばせることなら、それを目指して一生懸命やればいいんじゃない? 何時か結果はついて来るよ」
ギュッタ
「マスター、ありがとう! 俺、やっていけそうです」
「それは良かった。ギュッタ、聖魔道士のこと聞いたの、ファイアだろ?」
「はい」
マスター
「ファイアは、ギュッタの夢をぶっ潰したんだろうけど、悪く思わないでくれ」
ギュッタ
「全然! ファイアさんが言ってくれなかったら、ずっと恥をかいていました」
マスター
「そう言ってくれると嬉しいよ」
昨日、マスター達はウルヴァンから『ギュッタに聖魔道士は恋愛ご法度って、どう伝えていいのか分からない』と、相談を受けた。
「ファイアが『何とかする』て、言ってくれたんだ。ファイアは皆なが、嫌がる事を何時も引き受けるんだけど、自分がいい奴だって気づかないんだ」
ギュッタが初めて会った時からファイアは親切で、友達になり彼の賢さも知った。
しかし彼は、いつも自分のことを『どうせ豚だ、俺なんて大したことはない』と言って力なく笑うのである。
2人が話していると、ファイアがバル爺の荷物を持ち、橋から桃源郷に降りる階段でバル爺の手を引きながら降りて来た。
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