嫌な予感

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嫌な予感

ギュッタは普段、青空教室が済むまでの間にランチを食べ、魔導の勉強をして過ごしている。 ファイアは午後から、青空教室でバル爺を手伝っていた。 フロリバンダ難民の生徒がクラノス語を理解できず、苦しんでいるのが放って置けない。 最近は2人とも収入が増え、プエリトB級グルメを堪能することもあるが、大体は狼亭のランチであった。 ギュッタ 「ウルヴァンさん、ご馳走様!」 ファイア 「へい、お代!」 ウルヴァン 「要らねぇよ! 青空教室の駄賃の内だぜ! 散歩にでも行ってきやがれ!」 ウルヴァンの大きな声に送られて2人は大通りに出た。 ギュッタ 「ねえ、ファイアさん。俺、最近呪文唱える練習すると、何か空気が変わるんだ」 ファイア 「ほう、そりゃ上達したなぁ」 ギュッタ 「でも、うっかり街中で魔法がかかったら、大変じゃない?」 ファイア 「それ不味い、ご法度だぜ~」 ギュッタ 「魔導の実習をしたいけど、魔導教室に行く金ないし…街の外なら使っていいの?」 ファイア 「微妙~。街を出るのには許可証がいるぜ〜、でも何か考えないと…」 その時である、街の新聞売りが大声で叫んでいる。 「号外!! 号外だ!! フロリバンダに出兵された領主様が、戦死された!!」 大通りに緊張感が走る。 通りにいた住民たちが先を争って、新聞売りから号外を受け取っていた。 ファイアは、あっさり号外を手に入れていた。 「何てこった…悪い夢を見ている様だぜ〜。後継ぎの坊ちゃんは、まだ8歳だぜ~」 ファイアは号外を2枚も手にしている。 渋い顔をしながら号外を1枚ギュッタに差し出し、 「これ、マスターの所に持って行って『後でそっちに行く』て、伝えてくれ。俺は狼亭に戻るよ」 ギュッタ 「はい、でも…マスターこの時間寝ているよ」 ファイア 「うん。可哀想だけど起こして、頼む」 ギュッタは了承し、蜜蝋パブに駆けて行った。 ファイア (生き残った地元貴族に、ろくな奴がいない。嫌な予感がするぜ~) ギュッタは渋々店で仮眠中のマスターを起こし、号外を読んでもらった。 マスター 「うげ! 目が覚めたよ。領主さんは良い人だったけど、弟は守銭奴で隙あらば税や露店の出店料を上げようとするんだ」 ギュッタ 「ええ!! そんな…俺たち貧乏人は、夢も希望もなくなっちゃう!」 店の扉が開き、後ろからバル爺の声がする。 「落胆するでない! わしには対抗策があるぞい! よう聞け~!!」 マスター 「バル爺、青空教室は? 何? ファイアとウルヴァンが来て生徒の勉強を見てる」 広場からファイアが喚いている。 ファイア 「爺ジィ! 早く授業戻れよ~! 俺たち急ぎでマスターに話があるんだよ~! 爺ジィは後でガッツリ相談したいことがあるんだよ~!」 バル爺 「分かっとるわい!! 爺ジィではな~い! バル爺と呼べ!」 ファイアとウルヴァンがパブにやって来た。 ウルヴァン 「俺、先生は無理! 顔怖い、声デカいって子どもに泣かれて…夢に出てそうだぁ!」 ファイア 「気にするな、向き不向きがあるわ、俺は女の方が得意だぜ~!」 マスター 「ファイアって本当不思議だ、その面で女日照りないもんね」 ファイア 「俺はマメだし、通りすがりの女には必ず声かけるからね、ヘッヘ。ギュッタ悪いけど、俺の代わりにバル爺の手伝い頼むぜ〜」 ギュッタ 「はい、分かりました!」 ファイア 「ありがとうよ〜、さっきの話は明日しようぜ~。何とか力になりたいからさ〜」 そう言って、ギュッタの肩をギュッと抱きしめた。 ウルヴァン 「ギュッタ、 どうした?」 ギュッタ 「ファイアさんの感触? 匂い? どこか懐かしくて」 マスター 「この子、霜降り肉で柔らかいから、母さん思い出した?」 ファイア 「匂い? お前、村で豚の肥育手伝っていたろ?」 どちらかと言えば、マスターの意見に近かった。 ギュッタは青空教室終了まで、バル爺の手伝いをした。 日が傾くと桃源郷の店主たちも青空教室の後片付けを手伝い、開店準備を始めた。 ファイアも蜜蝋パブから箒とちりとりを持って出て来た。 「お~い、チビども。ゴミはちりとりに入れろ~、ペンはここに戻せ、テキスト借りる奴は爺に言えよ!」 青空教室の生徒たち 「は~い、焼き豚先生!」 すっかり焼き豚先生が定着し、子供たちの人気者だ。 広場の掃除も終わり、ギュッタ、ファイア、バル爺は狼亭へ戻っていった。 ギュッタ 「ファイアさん、どうしてファイア・レッドって名前なの? だって…豚さんを火で炙ったら焼豚だよ」 ファイア 「よく考えたらそうだわな~」 ファイアは話を変えた。 「バル爺さっきさ~、領主の弟が実権握っても『策がある』って言ってたがよ、店に着いたら教えてくれや。桃源郷のお時間までちょっと間があるからさ〜」 バル爺 「了解じゃ!わしらの暮らしを、夢を、諦める訳にはいかん」 ギュッタは1人で、狼亭に向かった。 ファイアはバルバロッサ爺と話がある様だ。 狼亭に戻ると既にウルヴァンはパブの仕込みを始めていた。 やがて仕事帰りの常連客や、宿屋の止まり客たちがパブに集まって来た。 早耳の常連客 「聞いたかい? ウルヴァンの旦那! 領主様が戦死しちまったって」 ウルヴァン 「たまげたぜ!! 良い人だったのに」 職人風常連客 「お陰で仕事が手に付かねえぜ! 後継の坊ちゃんが成人するまであの守銭奴の弟が代理領主か?」 心配性の常連客 「そのまま奴が乗っ取って坊ちゃんを何処かに、やっちまうんじゃねえか?」 皆な同じことを心配している。 常連客達も食が進まず早々に帰宅し、店を早く閉めた。
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