凄いお客様

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凄いお客様

食堂の後片付けが終わりギュッタは蜜蝋ギルドに、教本を借りに行くことにした。 ウルヴァン 「ギュッタ気を付けて行けよ! 世の中物騒だ!」 ギュッタ 「はい、ウルヴァンさん」 本音は魔導教本より、ギルド内でプリエト領主の戦死の詳しい情報が欲しかった。 ギュッタは何時もの様に蜜蝋パブのマスターに挨拶をし、店の奥の酒樽の前に来て、酒樽を軽く叩きながら『オープンセサミ』と心に念じた。 今では、楽に魔導結界を操作できるまで呪文は上達していた。 夜は艶やかなマリアが出迎えてくれる。 「今日は貸し出し? 最近ペース上がったわね」 ギュッタ 「はい、夢幻堂の古本は読み放題で、ファイアさんが色々教えてくださるお陰です」 マリア 「そろそろ内の貸し出し教本、全制覇じゃない?」 ギュッタ 「でもまだ1冊薄いのが残っています。あの、ギルドの様子見て来ます」 マリア 「どうぞ、領主様が亡くなられた話で持ちきりよ、もう少ししたら凄いお客様がくるわ。夜中になっちゃうけど見て行くといいわ」 ギュッタ 「そんなに凄いですか? この地区の大物とか…」 マリア 「もっと凄いわ、楽しみにして。フフ」 蜜蝋ギルドは300年近く続いている老舗で、報酬が握り拳ほどの純金で支払われる仕事も請け負う規模である。 一体どんな凄い客が来るのかギュッタはときめいた。 ギュッタ 「夢でいいから、そんな大物からクエスト受けてみたいな…。でも、大きな仕事ってやっぱり戦争絡みかな?」 ギュッタはギルドの奥に進んで行った。 最近ではギルド内で挨拶をしてくれる人もいるが、実戦経験のないギュッタにクエストを申し込む会員はいない。 「せめて呪文の実習ができれば、正規のクエストが受注できるのかな…」 冒険者風の若い男 「若造、その腕前ではクエスト依頼は無理だが、ネタなら教えてやるよ。俺は武器商人の用心棒で、ノーザンパクト傘下の鉄鋼産出国から戻って来たところさ」 何となく自慢好きの男である。 ギュッタ 「へぇ、随分危険な所に旅をしていたのですね。是非聞かせてください、お茶をもらって来ますよ」 用心棒 「若造、気が利くな。俺はプリエト領主のことなら結構知っているぜ!」 用心棒は語り出した。 ザイオンの侵攻に、最後まで交戦したフロリバンダの騎士団と同志やその家族が、クラノス国境線上で立ち往生していた。 そこはヴォレイオス山脈の頂上近くで酷寒の地であった。 プリエト領主は、飢えと寒さで苦しむ彼らを支援するために、食料やテントを国境線に輸送する途中、野盗に襲われ落命したらしい。 支援物資が十分に届かず、多くのフロリバンダ人が飢えと寒さで死亡した。 如何にも心優しいプリエト領主らしい最期であった。 ギュッタは用心棒に質問した。 「あの、どうしてフロリバンダ騎士団は立ち往生したのですか?」 用心棒 「いい質問だ、若造。主導権争いだ」 亡命場所としてクラノス王国は、300年前にグルージヤ神教国が今の聖地に移動する前に建てた、仮神殿跡を推薦した。 しかし、グルージヤ神教国がそこは自分たちの施設だと主張した。 今後国王の戴冠式や王族の婚礼など重要な儀式は、グルージヤ神教国の神託を受ければ金銭は要求しないと言い渡した。 信託を断れば、法外な施設使用料支払いを要求したが、フロリバンダ騎士団には飲めない話だった。 用心棒 「使用料を払うために、フロリバンダの男達は有り金を叩き、武器以外の持ち出した財産を全て売ったが足なかった。娘たちは、プリエトの娼館で身体まで売ったんだぜ」 酷い話だ、ギュッタは故郷の妹を思い出した。 ギルドに置かれた新聞によると フロリバンダ騎士団・有志は今月から、仮神殿に移動する目処が付いた。 ザイオン連邦共和国の下部組織ノーザン・パクト(占領)からの脱却(独立)を目指す『フロリバンダ解放分キャンプ』を設立予定だという。 グルージヤ神教国は、困った人々を神の力で救うのだとギュッタは信じていたが、夢物語らしい。 用心棒 「おい! 若造。今日の主役が登場だぜ、入り口の結界を見な」
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