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英雄の銀狼
仄暗いギルドの中で、結界の文様が光ると5人のクラノス軍の兵が現れた。
屈強そうな4人の士官は覆面をしている。
屈強そうな士官に護衛され中央にいる男は、クラノス軍の上級将校の軍服を着て堂々と顔を出していた。
狼の顔をした獣人だが、これぞ狼という胡麻毛のウルヴァンとは随分違う。
毛色は銀色で、小柄であるがそれを感じさせぬオーラがあった。
ギュッタはこれだけ大勢身分の高い人を見たのが初めてだった。
用心棒
「あれが、『英雄の銀狼』ザンジバル中将だ。上級魔道士でクラノス軍随一の軍師だぜ」
用心棒は話を続けた。
中将は、クラノス王国の友好国に侵攻して来たザイオン軍を、友好国との連合軍で打ち破ったのである。
ザイオンは征服したい国や地域に、大量のスパイを送り込んでいる。
自分の国に不満があり、金に弱い、身分の高い人物を探すのだ。
彼らに大金を積みザイオンへの内通を促し、内乱を誘発させ体制を崩し、ザイオン軍が攻め落とす。
この30年余り同じやり方で、多くの国々を支配下に置いて来たのだ。
用心棒
「ザンジバル中将は内乱が起こる前に、友好との国合同軍事演習を理由に駐屯し、内通者を見つけ出し先回りしたんだ」
これがザイオンとの戦闘で、クラノス王国友好国側の初勝利であった。
「俺も夢でいいから、あんな男の下で仕事したいぜ!」
ザンジバル中将は、灯りのないギルドの奥に進んで行った。
ギュッタは驚いた。
暗がりの中で微かに見えたのは、あの黒装束の男である。
「あの人! 前にも見たんですよ」
用心棒
「どこだい? あれじゃ見えないぜ」
4人の屈強そうな士官たちが、ギルドの奥で壁の様に立ちはだかっていた。
ギルドに居合わせた他の会員たちも、黒装束の男には気づいていない様子だ。
ギュッタ
(夢でも見た? 以前も凄いお金をクラノスの軍人から受け取っていたから、間違いないと思うんだ…)
ギルドの会員達が噂話をしている。
傭兵風の男
「クラノス領内に『フロリバンダ解放軍キャンプ』が設立予定だ、史上初のノーザンパクト脱退作戦でもするのか?」
行商人の様な女
「それより、フロリバンダに隣接したクラノス王国友好国防衛が先じゃない?」
地元富裕商人風の紳士
「いやいや、領主様が亡くなられ不安定になったプエリト一円のテコ入れだろう。プリエトに来た理由は領主様の弔問だよ」
様々な憶測が飛んでいるが、ギュッタが気になるのは、黒装束の男であった。
ギュッタ
(あの人一体何者?)
暫くすると、ザンジバル中将が4人の士官に護衛されながら入り口に戻って来た。
結界の呪文を唱え、全員ギルドの外へと出て行き、部屋の隅は誰も居なかった。
(よし! 確かめてやる)
ギュッタはギルドの奥へと駆けて行った。
ギュッタは柱の前にある結界の文様が、暗闇の中で微かに光っていることを確認した。
普段は、ここに来ても何もない。
ギュッタは文様に飛び乗り、大きな柱を睨みながら呪文『オープンセサミ』を唱えた。
「扉が開いたぞ、それ!」
ギュッタは柱の扉に飛び込み、暗闇の螺旋階段を一気に駆け上がった。
ギュッタの頭に暖く、柔らかい物が当たると…
「頼むよ、暗闇で突然人の尻を突くは止めてくれ」
ギュッタが見上げると赤い光が2つ横三日月に並んでいる。
黒装束の男が、微笑んでいる?
ギュッタ
「お久しぶりです! 良かった、追いついて。あなたにベランダから、プリエト3番橋に飛び移られたら、俺は追いつけませんからフフフ」
黒装束の男
「こんな狭い所を、君みたいに素早くは動けないよ。窮屈だ、先を急ごう」
2人は蜜蝋パブのベランダに出て来た。
黒装束の男
「そんなに大急ぎで後を追って、俺に何か聞きたいことでもあるのかい?」
ギュッタ
「いっぱい聞きたいことがあるけど、でも…」
黒装束の男はベランダの桟に腰掛けながら話し出した。
「答えられないよ。今言えることは、俺は交渉代理人でザンジバル中将がクエスト受注者だ」
彼が、あの様な大物にクエストを出したことに驚き、声を発しそうになったが、黒装束の男に人差し指で唇を押さえられてしまった。
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