夢を尋ねる

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夢を尋ねる

ギュッタ 「でも…の続きはね。あなたにもう一度会えたことが、俺は夢みたいに嬉しいって。フフフ」 黒装束の男 「本当に?」 照れているのか、彼は暗闇の中で何度か帽子を被り直した。 ギュッタ 「あなたに会いたくて、ギルドに来たらいつも、あの隅をいつも探していました」 黒装束の男 「嬉しいけど複雑だな。俺がここに居るのは、世の中平和じゃない証拠だからね」 ギュッタ 「知っています。初めてあなたを見た時、ギルドの誰かがそう話していました」 黒装束の男 「普通は俺を見ると怖がるんだよ、君は度胸が座っているな」 ギュッタ 「あの…聞いていいですか?」 黒装束の男 「何を?」 ギュッタ 「あなたの夢は何ですか?」 黒装束の男 「え…俺にもその質問? 今は、ないよ。俺を怖がらない奴が1人でもいれば、それでいい、夢はもう叶っている」 ギュッタ 「え!?…」 大声が出そうになったギュッタは、彼に口を手で塞がれてしまった。 黒装束の男 「ありがとう。もう、俺は行かなければならない。君はどうする? 狼亭に帰る、それともギルドにまだ残る?」 ギュッタ 「あの、魔導教本を借りたくて。この螺旋階段、ギルドに戻れるのですか?」 黒装束の男 「俺も、出口としか使ったことがない、戻るのが怖くてね。別の道、教えてやるよ」 黒装束の男は、ギュッタに背を向け負ぶさる様に促した。 ギュッタ 「また吹っ飛ぶつもりですね?」 黒装束の男 「いいや、もう少し安全だ」 ギュッタ 「本当? よいしょ、と」 ギュッタは、彼の背中に捕まった。 何と、黒装束の男はベランダから地面に飛び降りた。 ギュッタ 「この前より怖かったですよ! 真っ暗じゃないですか」 黒装束の男 「下、見てごらん。」 ギュッタ 「あ、結界の文様が光っている。ありがとうございます! また会ってくださいね!」 黒装束の男 「ああ、今宵は良い夢を」 黒装束の男は闇に消え、ギュッタはギルドに戻ることができた。 ギュッタは、新しく教本を借りるため、蜜蝋ギルドの手前の教本置き場に戻り、棚にあった一番薄い教本を手に取った。 「ふ~ん『4原素以外の魔法・中級への手引き』4原素意外にも魔法原素ってあるんだ…」 魔法は火・風・水・土の4原素とで成り立っている。 ギュッタは4原素の組み合わせと、光の要素で呪文を唱えることで、様々な魔法が使えることを今までの魔導教本で学んだ。 ギュッタ 「へえ。妖精の魔法に野獣の魔法、何々? 基本我々が使う魔導要素は光でるが、要素には光があれば闇もあり…。闇魔導!?」 ギュッタはこの教本を借りて帰ることにした。 ギュッタはこの魔導教本を借り、外に出ると、桃源郷の小さな広場で、所在なく立ち尽くす道化姿のファイアを見つけた。 「ファイアさん、元気ないよ」 ファイア 「よ~う、ギュッタ。 昼間は悪いニュース、夜はど偉いお方が来るわで、商売上がったりだぜ~」 ギュッタ 「お客が取れなかったの?」 ファイア 「ううん。1人2人は…ほら~」 ファイアは広場の前に逆さにして置いた山高帽の中身を見せた。 帽子の中の小銭を合計してもエール1杯飲めそうもない。 ファイア 「今日は、諦めだな、みんな夢語る気分じゃね~や。狼亭で残飯、恵んでもらおうぜ〜」 という訳で、2人は桃源郷を離れ狼亭に行くことにした。 ファイア 「ちょっと待ってくれ~」 ファイアは、橋の下に駆けて行った。 ギュッタは、ファイアが立小便をするのだと思い、咎めるために後を追った。 ファイアは川の水で顔を洗い、派手なストライプのズボンを勢いよく揺さぶった。 ギュッタ 「え! ファイアさん、毎晩お化粧している!? てか! ズボンの縞模様が消えた…」 更に、派手な紅のジャケットを裏返しにすると、地味な色のフロックコートに早変わりした。 ギュッタ 「今、凄い魔術を見せてもらいましたぁ!!」 ファイア 「そんな大声出すんじゃねえ~、人がこっそり変身しているのによ~」 ギュッタ 「あ、ご免なさい」 ファイアはふいに、橋の上で立ち止まり、 「煙草吸っていい?」 ギュッタ 「いいよ」 ファイア 「ありがとうよ~。俺さ、以前自分で色々捨てたって言っていただろ?」 ギュッタ 「はい…」 ファイア 「俺、外国籍なんだ。凄げえ田舎育ちで、村には医者がいなくてね」 ファイアは煙草の煙を一息吹かせ、続きを語り出した。 「俺、ガキの頃は医者になるため猛勉強した。お陰で、国の奨励金でグルージヤ神教国に留学して、医術の勉強させてもらえたんだ。」 ギュッタ 「凄いね!」 ファイア 「そこまでは良かった。大学も成績抜群で卒業して、医者になれるって思ったんだよ」 月を煙草の煙が曇らせている。 ファイア 「国は俺が医者になることを許さなかった。国軍への入隊辞令を断れなかった、国の金で大学まで行ったからさ〜」 ギュッタ 「お医者になる夢を、国に奪われたの?」 ファイア 「そうだよ。国軍の諜報機関なんて嫌な仕事でも精一杯やれば、出世したよ」 ギュッタ 「何がきっかけで、地位や名声を捨てたの?」 ファイア 「俺が本当のことを国に報告しても、誰も信じなかったんだよ」
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