恐ろしい夢

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恐ろしい夢

マリア 「お客様!登録の準備がでたわよ~」 ギュッタはカウンターに駆け寄った。 マリア 「ギュッタ、あなたのお宿、決めちゃったわよ。この近所で表通りに出てすぐ『プリエト3番橋』を渡って向かい側にある『狼亭』て、いう宿屋さんよ」 ギュッタ 「でも俺、金が…」 マリア 「大丈夫、蜜蝋ギルド登録初仕事が狼亭1階大衆食堂のお皿洗いよ!朝、晩、2回で1泊できるの」 ギュッタ 「ありがとうございます!(俺の夢に橋が架かったぞ!)」 落ち込んでいたギュッタは、舞い上がった。 マリア 「はい、お疲れ様。登録も済ませたわ、狼亭に行ってみる? ギルドを見学する?」 ギュッタ 「もう少しギルドを見学して、狼亭に行きます」 マリア 「じゃあ先に、ギルドの出入りの仕方を説明するわね」 マリアはそういうと、カウンターから出てきた。 最初にギュッタが現れた壁の前にギュッタを案内した。 マリア 「ギュッタ、足元を見て。この模様が魔導結界なの、この上で『オープンセサミ』て、いうと扉が現れるわ、これで何時でも出入りOKよ」 ギュッタの足元の床に円形の中に少し複雑な幾何学模様が浮き上がっていた。 ギュッタ 「ありがとう、マリアさん」 ギュッタはギルド内の見学を再開して奥に行くと、ギルド会員たちが噂している。 近くにいた黒魔道士風の女と、戦士風の男が話している。 黒魔道士風の女 「あの男、きな臭いね。あっちの隅に座って軍人さんと話している男だよ」 戦士風の男 「このご時世だ。こんな老舗ギルドでも、あんな奴が出入りするのか」 ギュッタはこの2人が見みている先に目を凝らした。 先ほど旅人風の男と話していた軍人が緊張した様子で、別の男と話している。 黒装束で、つばの広い帽子を深く被り、鼻から下をスカーフで覆った強面の男だ。 人相までは分からないが、僅かに見える揉み上げは燃える様な赤毛だ。 黒装束の男は軍人から、握り拳ほどの大きさの革袋を受け取ると、暗闇に姿を消した。 黒魔道士風の女 「ひぇ~、あの重み。金貨か砂金だよ、どんな大仕事したんだろうね。」 戦士風の男 「知らぬが仏だ、恐ろしい」 よほど恐ろしい夢を語っていた様だ。 軍人も結界を使って出て行くと、ギルド内の空気は元に戻った。 ギュッタ (やばい奴が消えた所、見てやろう) 落ち着くと恐怖心より好奇心が優ってきた。 ギュッタは、暗い壁に近づいて行った。 「これは!」 ギュッタは足元を見ると、見覚えのある文様が淡く光り浮き上がっている。 先ほどマリアが教えてくれた魔導結界と同じ文様だ。 目を凝らすと、目の前に古代遺跡を思わせる様な石造りの太い柱が見える。 ギュッタは結界の文様に乗り『オープンセサミ』の呪文を唱えてみた。 「お、酒樽の次は柱に扉が現れたぞ!」 ギュッタは迷わず扉を開けて前に進んだが、真っ暗闇である! 「しまった!これ、罠? 悪夢かも…イテッ!」 ギュッタはどうやら階段に躓いたようである。 「よし!登ってみよう」 真っ直ぐ進まない、柱の中に螺旋階段が作られている様だ。 ギュッタは必死で急な螺旋階段を登り始めたが、延々と続いた。 階段の幅が狭くなり、足場が平になり、ギュッタはやっと階段から脱出できた。 ギュッタ 「怖かった…。やっと出たけど、外も真っ暗だ。」 そこは小さなベランダで、前を見るとプリエト3番橋が架かっている。 そして川の向いに狼の顔が描かれた宿屋の看板が見える。 「あれが狼亭か。」 近くに見えるが、橋に行くためにこの館を出て、回り道をしなければならない。 ギュッタは突然誰かに声をかけられた。 「君、いい筋をしているな。」 ギュッタは恐る恐る声の方に顔を向けた。 声の主は、あの強面黒装束の男である。 しかも目が赤く燃える様に光っている、この男は人間ではない。怖い! 「ヒッ!」 悲鳴をあげようとしたギュッタは、男に人差し指で口を押さえられていた。 黒装束の男 「怖がらせて申し訳ない。根が野獣で夜目は効くのだが、あの螺旋階段は俺も怖いよ」 ギュッタ 「本当ですか?」 黒装束の男 「上に登るにつれて細くなるだろう? 最近歳で太ってね、途中で身動きが取れなくなったら…」 ギュッタは吹き出してしまった。 強面男が、真面目に中年太りの話をするのは予想外だ。 男も笑っている? 言った本人まで可笑しくなったようだ。 黒装束の男 「よく魔導結界を見つけたね、普段は無いんだよ」 ギュッタ 「結界文様が薄ら光っていたので、そこに乗って呪文を唱えたら扉が現れて…」 黒装束の男 「結構な魔力と行動力だ、君は魔導を使う素質あるよ」 ギュッタ 「ありがとうございます。でも普通は10歳までに魔導教育って始めるのでしょ? 俺、魔導書読めないし、もう13歳だから修行して間に合うのかどうか…」 黒装束の男 「13歳! クンクン…。君! 酒臭いぞ、15歳未満で飲んでいるのか?」 ギュッタは慌てて道で会った派手な豚型獣人の男に、半ば強制で蜜蝋酒を奢られたことを説明した。 黒装束の男 「それはとんだ道化師だな、俺が代わりにお詫びしてやるよ」
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