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プリエトの今
ギュッタは、冬の寒さとは違う冷気を感じた。
ファイアが戦死していれば、こうして会うこともできない。
「ウルヴァンさんやマスターも?」
ファイア
「うん、桃源郷の店主達も半数は召集されてよ〜、フロリバンダとの国境線まで駆り出されたぜ~」
他国の戦争は、貴族や職業軍人が行くものだと思っていたので、ギュッタは街の人々が駆り出されているとは夢にも思わなかった。
ファイア
「帰れなかった店主もいた。片腕を失った旦那もいてね。息子は学校辞めて、自分が店を継ぐって言ってさ〜、母ちゃんと夜遅くまで働いてんだ〜」
ギュッタ
「その子何歳なの?」
ファイア
「10歳かな? 可哀想だな、賢いのに。金がない、時間もない、チビの頃は簡単なおもちゃ作って一緒に遊んでやったがよ〜。今の俺には何もしてやれね〜」
突然隣の店の窓が空き、禿頭の老人が顔を出した。
「何じゃとぉ~!!」
ギュッタ
「わー!! 何!?」
ファイア
「びっくりさせるな!! 糞爺イ!」
禿頭の老翁
「誰が糞じゃあ!! バルバロッサ爺と呼べ!」
ファイア
「バル爺! 盗み聞きしていたのかよ」
バル爺
「不可抗力じゃ、本棚の整理しとったら、子どもが教育を受けられぬ話を、お前がしおったから、思わず顔を出したのじゃ!」
ファイア
「本の整理って、バル爺売れてんのか? 小難しい古本ばっかでなく、大衆向けのエロ本も置けよ~」
バル爺
「この阿呆! お前が心配せんでも得意先くらい掴んでおるわ!」
バル爺はギュッタを見て
「わしは『夢幻堂古書店』のジラフ・バルバロッサじゃ、昨日から狼亭の手伝いに来た子じゃな。よろしく頼むぞ」
ギュッタ
「こちらこそ、俺ギュッタです。よろしく!」
バル爺
「本は好きか? …そうか! 店に立ち読みしに来い。隣でわしの妻が薬草屋をやっとるので、お茶を奢ってやるぞ。」
ギュッタ
「ありがとうございます」
バル爺
「若い時には、勉強をして欲しいものじゃ。何とかせねばのう~焼豚よ」
ファイア
「うん。あの子1人じゃねぇぜ~、貧しさや戦争で勉強どころじゃねぇ子はよ〜」
バル爺
「ファイアが街に賑わいを作っておるなら、わしも一肌脱ぐか…」
ファイア
「爺イのヌードなんざ、見たくねぇぜ~ぃ。ゲッヘッヘ…」
バル爺
「この阿呆!!」
昼食が終わり、ファイアは用事があると言って何処かへ出かけた。
ウルヴァン
「ありゃ女の所だよ、昼間から元気だぜ! 俺、これから出かけるけど、ギュッタはどうする?」
ウルヴァンはクラノス軍の退役軍人で、週に1回プエリトのクラノス軍駐屯基地の教練を頼まれている。
ギュッタも、街の散策に自分も出かけることにした。
プリエトの街は、北東部が高く南西部が低い丘陵地だ。
西側は安値の宿屋街と庶民の住宅が建っている。
北西にはグルージヤ神教のプリエト教会や墓地があるようだ。
教会の横に、国境が近いので大規模なクラノス軍駐屯基地がある。
北にはプリエト領主の居城がり、北東に地元貴族達の館が並んでいる。
東門の通りは宿賃の高いホテルが並んでいる。
南東は、城や城門の役所で務める下級貴族、兵士達の集合住宅が並んでいた。
南西は、表通りは庶民のマーケットで、裏通りは桃源郷を含む飲み屋街。
街の中心には、大きな広場があり周りには商店や劇場が建っている。
ここに、クラノス王国やプエリト城主からのお触れ書きが出され、月一度の満月祭には広場中に露店が並ぶ。
更に南に行くと、『5番街』と呼ばれるひと夜の夢を売る花街がある。
南部の大半は貧しい人々が住む地域スラム街だ。
ギュッタ
「あ、教会の鐘の音だ。帰らなきゃ食堂が始まる。今夜は蜜蝋ギルドで魔導教本を借りよう、あの黒い服を着た人に会えるかな?」
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