日課

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日課

気づけば2ヶ月ほど経ち、季節は真冬から早春だ。 ギュッタは、食堂の皿洗いだけでなく狼亭の仕事の大半をこなしていた。 夜の仕事が終わると、桃源郷の蜜蝋ギルドに通い魔導書を借り、黒装束の男を探しギルド内を見て回った。 「せっかく励ましてくれたのに、お礼言わなきゃ…」 モーニングが終わるとギュッタはいつもプリエト3番橋の上に行く。 いつもの様にファイア・レッドが橋の向こうで煙草を吹かしている。 2人は取り止めもない話をしながら、日課の桃源郷の清掃に向かった。 ファイア 「ここの生活は慣れたかい? 俺はちゃんと煙草の吸い殻持って帰っているぜ~。ヘッヘ」 ギュッタ 「はい!ファイアさん立派、フフフ」 ファイア 「ありがとさ~ん。ヘヘヘ」 ギュッタ 「ねえ、バル爺様が『青空学習教室』立ち上げたね。場所が、いつもファイアさんが夜に、大道芸やっている桃源郷の広場でびっくりだよ!」 ファイア 「タダで使える広場って、この近所じゃあそこくらいしかね~ぜ」 ギュッタ 「これで夢を諦めずに済む人が増えればいいのにな」 ファイア 「増えるとも、増やしてみせるさ!」 ファイア・レッドの鳶色の瞳に青空が映っていた。 桃源郷の掃除が終わるとギュッタは少々早めのランチが日課だ。 ギュッタは最近狼亭での仕事ぶりを評価され、ウルヴァンから僅かに給金は貰っているが、貧乏であった。 従って、狼亭で取るランチも日課だ。 一緒に掃除をしているファイアにとっても、狼亭で遅めのモーニングが日課である。 ウルヴァン 「今日はのんびり帰ってきたな。」 ギュッタ 「バル爺様の青空教室の準備を2人で手伝って来ました!」 ファイア 「安息日以外は爺々の奴、頑張るってよ。俺たち手伝いが日課になりそうだぜ~」 愚痴を言っているが嬉しそうだ。 父親が戦争で負傷し家業を継いで学校を辞めた少年も、フロリバンダ難民の子どもたちは勿論スラム街の青年も勉強に来ていたのだ。 ギュッタ 「俺も勉強励んでいるけど、魔導文字がわかり辛くて…」 ギュッタは暇を見つけては蜜蝋ギルドで魔導教本を借りて、魔法の勉強をしている。 分からないところは、夢幻堂古書店に行って調べる毎日だ。 ファイア 「どの辺りが?」 ギュッタ 「文様と文字の区別がつかなくて。クラノス語なら『a』が『ア』ではっきりしているのに…」 ファイア 「クラノス文字はそのまま音を表すだけで、魔導文字は意味を表す文字が混ざっているんだ、ありゃ文様じゃなくて文字だ」 ギュッタ 「あれ全部文字…」 ファイア 「色付きでデカいのは、文様だぜ。教本持って来なよ、教えてやるぜ~!」 ファイアの魔導文字の説明はとてもわかり易かった。 ギュッタ 「ファイアさん有難う!これで勉強が進むよ。」 ファイア 「そっか? お前、結構理解していたぜ」 ギュッタ 「また聞いていい?」 ファイア 「バル爺に聞けば?」 ギュッタ 「爺様は説明長いよ、小さな子どもは喜ぶけど。フフフ」 ウルヴァン 「分かるぜ、それ! ガッハッハ…!」 ファイア 「俺みてえな奴で良けりゃ、また聞いてくれ~」 ギュッタ 「はい!ファイア先生!!」 ファイア 「止せやい、照れるぜ~」 ファイアの豚鼻が真っ赤になった。 「そろそろ桃源郷のお時間だ。夢を語りに行くぜ~、またな!」 ファイアは去って行った。 ウルヴァン 「あいつ、本当はできるんだよ。自信をなくしてあんな姿になっちまったんだ…」 ギュッタは、以前ファイアが『全てを失った』と話していたことを思い出した。 ウルヴァン 「ファイアは、俺の恩人だ。俺の嫁は6年前に難産で死んじまったんだ、あいつがいなかったら娘もあの世行きだったんだよ」 ギュッタ 「ファイアさんは、どうやって娘さんを助けたのですか?」
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