誘いに乗らない理由

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幸いなことに今回は意識を失うことはなかった。 いや、本当に地面に倒れていたらどうなっていたのか分からない。 ―――・・・あれ? ―――痛くない・・・。 瞑っていた目をゆっくり開けると汗を流した流二が海成の身体を支えてくれていた。 「流二・・・」 「馬鹿野郎ッ!!」 「ぅ・・・」 何故怒られたのか分からない。 それよりも海成は流二に言わなくてはいけないことがある。 ―――もうこの際、強引でもいい。 ―――この気まずい関係を何とかしなきゃ・・・。 ―――ちゃんと解決しなくても、表向きだけでもいいから。 「流二・・・。 お願い。 僕と仲直りして」 「・・・」 そう言うと黙って海成を見つめてきた。 「関係の悪いまま、流二と離れたくないんだ」 「離れたくない・・・?」 「流二が僕に対して怒っているのは分かってる。 それでも僕は、無理にでも仲直りしたい」 「・・・それは、どうしてだ?」 「今仲直りしないと、絶対に後悔すると思うから」 そう言うと流二は強い口調で吐き捨てるよう言った。 「ったく! 一体海成は何なんだよ!!」 「え・・・?」 「先生から聞いたぞ? いきなり今日からアメリカに旅立つだって!? その理由を俺に教えてくれなかったくせに!!」 「ごめ・・・」 「今、海成の家まで行って海成の病気のことを聞いてきた」 「・・・ッ」 「どうして今まで隠していたんだよ!! 俺たち親友じゃなかったのか!?」 確かに隠していた。 親友なんて言葉を使いながら、大事なことを秘密にしていた。 海成はただ怖かった。 自分の弱いところを見せると、流二が他の誰かのところへ行ってしまうような気がして怖かったのだ。 「だからこそだよ・・・。 流二には心配をかけたくなかったんだ」 そう言うと流二は俯いて言った。 「・・・心配しちゃ悪いかよ」 「・・・え?」 「今の俺にはその権利もないのか?」 「ッ・・・!」 咄嗟に海成は流二の腕を掴んだ。 「それに何だ? 今仲直りしないと後悔するって、海成は死ぬつもりなのか?」 「そんなわけない・・・。 それに心配してくれるのは嬉しい」 涙ぐみながらそう言って再度尋ねた。 「流二、僕と仲直りしてくれる・・・?」 その言葉に流二は時間を置いて言った。 「・・・分かった。 仲直りしよう」 「本当に?」 「あぁ。 俺、必ず見舞いに行くから連絡してくれよ?」 「うん・・・ッ! でも、来れるの? 場所は遠いアメリカだけど・・・」 「俺たちは親友だろ? 絶対に会いにいってみせるさ」 実現するかどうかは分からない。 それでも、たとえ口だけでも、そう言ってくれることが嬉しかった。 心臓の手術は正直怖くてたまらないと思っていた。 だが誰かが自分のことを想ってくれているだけで、心が一人分余計に支えられるのだ。 「広いアメリカで一緒に走るから、そのつもりでな!」 「うんッ!!」                                -END-
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